視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
建築家・著述家  武澤 秀一(東京都国分寺市)



【略歴】前橋市出身。東大卒。工学博士。1級建築士。設計活動とともに東大、法政大で講師を兼任。現在は放送大学講師。著書に「伊勢神宮の謎を解く」(ちくま新書)など。



「シャッター通り」問題



◎今後の社会への試金石



 3月11日の大震災そして原発の事故以来、この社会は未曽有の困難に直面している。しかし、その前から、少子高齢化そして人口減少という解決困難な問題に直面していたことを忘れてはならない。社会の縮小化が深く静かに進行している現実がある。その中にあってエネルギー大量消費社会からの脱却は必然であり、価値観やライフスタイルの転換が求められている(本欄昨年12月3日、本年7月21日付の拙稿を参照)。

 今回、取り上げるのは県都前橋で深刻化して久しい中心市街地の空洞化、つまり「シャッター通り」問題である。これにどう向き合うかは、今後の社会を展望する上で一つの試金石になると考えるからである。

 言うまでもなく、「シャッター通り」をもたらした根本要因は車偏重社会にある。都市郊外における道路網の整備拡充は人の動き、物の動きを飛躍的に増大させた(同時に土木建設業を潤した)。車はますます便利で快適になり、一家に2台、3台も珍しくない(車もよく売れた)。郊外沿線には大型量販店が続々と進出し、経済が回った。こうして車偏重社会が形成されたが、そのツケが中心市街地の空洞化となって現れたのである。これは予想された事態であった。車の個人所有が珍しかった時代に形成された中心市街地。それが車偏重社会に取り残されるのは必然だった。

 それでは、どうすればよいのか。大きく二つの方向が考えられる。第1の方向は、中心市街地をあくまで商業地として復興させる選択。第2の方向は、中心市街地を商業地ではなく、別の性格付けを模索する選択。

 第1の方向は従来採られてきたものだ。「シャッター通り」の活性化を願い、これまでさまざまな施策やイベントが打たれてきた。だが車偏重社会が前提とされる限り、中心市街地が構造的にこれに適応していないのだから、残念ながら対症療法の域を出ない。結果、中心市街地は依然として社会から取り残される。そこから脱却するには、車依存症を改める市民の意識改革から始めるしかない。

 考えてもみよう。わずか50~70キロの人間一人を運ぶのに1・5トンの鉄の塊をガソリンで動かす過剰消費!(原油は有限、かつCO2を排出)。何も車を無くそうというのではない。車べったりの生活習慣を見直し、バス等の利用を極力心掛けたいのである。もちろんそれだけでにぎわいが戻る訳もなく、魅力ある街づくりへの努力が不可欠だ。

 大量エネルギー消費からの脱却は避けて通れない道であり、車偏重社会からの脱却はその第一歩である。そうした生活実践と軌を一にしてこそ、中心市街地が商業地として復興する道が開かれよう。(第1の選択が無理ならば、第2の選択になる。これについては次回に検討したい)








(上毛新聞 2011年9月16日掲載)