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大妻女子大教授  干川 剛史(神奈川県相模原市)



【略歴】前橋市生まれ。慶応大大学院修了。阪神・淡路大震災から情報ボランティアを実践する。徳島大助教授を経て、現在、大妻女子大教授、日本災害情報学会理事。


灰干しネットワーク



◎被災地復興への励みに



 先月は山形県酒田市・飛島、東京都三宅島、宮崎県高たかはる原町・都城市、宮城県気仙沼市・南三陸町へ、現地調査等で行った。自宅にいる時間はわずかであった。

 酒田市・飛島を除いた地域は、火山災害と大震災の被災地であるが、筆者が先月訪れたこれらの地域は、前回紹介した「灰干し」を媒介して、今後、相互に復興支援のネットワークで結ばれる可能性が出てきた。

 というのは、今年4月から毎月末に南三陸町で開催されている「福興(復興)市」で、今月25日に、筆者が、物品販売の手伝いを毎回している「酒田市中通り商店会」の協力を得て、三宅島と高原町で作られた灰干しを試食販売することになったからである。

 三宅島の灰干しは、知り合いの漁師さんが、自ら漁船で獲った魚等と三宅島の火山灰を使って製造し、三宅島漁協の鮮魚販売センターに卸しているもので、特に、サメの灰干しは、三宅島の人たちの間でおいしいと評判になっている。

 他方で、高原町の灰干しは、地域おこしや被災地支援活動を行っている「特定非営利活動法人たかはるハートム」が、精肉店の協力で地元食材と新燃岳の火山灰を使って試作している。

 高原町の灰干しは、先月24日に「たかはるハートム」の試食会で食べさせていただいた。そこで出されたシカとイノシシの肉や鶏の内臓肉は、それぞれ、独特の臭みがあるが、灰干し加工すると、臭みが抜け、味も凝縮され、パリッとふっくらと焼きあがり、とても美味しかった。

 この試食会は、本県出身で長年にわたって筆者と災害情報支援活動や灰干しづくりで行動を共にしている金沢市の星稜女子短期大学准教授の沢野伸浩氏と一緒に、「都城圏域地場産業振興センター」の灰干し講習会(8月25日開催)の講師を都城市工業振興課から依頼されたことをきっかけに、開催をお願いした。

 また、先月27日に開催された「宮崎放送」主催の「みやざきご当地グルメ選手権」に、たかはるハートムが、灰干し500食を携えて初出場し、準優勝するという好成績を収めた。

 ところで、震災発生前に南三陸町では、鮮魚店や水産加工業の方たちが筆者の仲間たちと連携して、サケとホタテで三宅島の火山灰を使った灰干しの試作をしていたが、津波で建物ごと火山灰も道具も流された。

 彼らは、先月やっと、店舗や加工場を再建し営業再開できた段階であるが、ゆくゆくは、灰干しづくりを再びしたいという想いを抱いている。

 今月の福興市での灰干しの試食販売が、南三陸町の方たちの復興への励みとなれば、幸いである。

 最後に、読者のみなさん、灰干しがつなぐ被災地復興ネットワークに、今後もご注目下さい。







(上毛新聞 2011年9月17日掲載)