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東洋大学国際観光学科教授  古屋 秀樹(城県古河市)



【略歴】埼玉県狭山市生まれ。東京工業大大学院修了。専門は観光交通計画、観光行動分析。筑波大講師などを経て、2008年から現職。赤城山振興有識者懇談会委員。


観光まちづくり



◎地域の特性活用を



 9月初旬、ゼミ視察旅行で金沢、五箇山、白川郷、高山を2泊3日でまわった。これらの地域を初めて訪問したのは、約20年前の高校修学旅行であった。それ以降、各地ではさまざまな観光振興策が実施され、記憶との対比を通じて多くを学ぶことができた。

 例えば、金沢では金沢城址(じょうし)の再建と兼六園、二十一世紀美術館との一体的整備のほか、重要伝統的建造物群(重伝建)保存地区のひがし茶屋街や、北陸新幹線開通を背景とした金沢駅周辺の整備などが実施され、都市の中で観光の核となる施設整備が調和を図りながら行われている。

 また1995(平成7)年に世界遺産に指定された五箇山と白川郷では、その趣を異にしている。白川郷は修学旅行で経験した素朴な空間が少なくなっており、萱葺(かやぶき)屋根の合掌造りも半数以下である。荻町地区を貫く道路の両側には、土産、料飲を販売する店舗が軒を連ねる。来訪者数増加を達成することは困難だが、一度増加すると新たな建築、営業行為が始まり、それまでの地域性が損なわれるケースが少なくない。観光振興には不確定要素があるものの、地域をどのように守り、後世に伝えるかが大きな課題といえる。

 それに対して五箇山は、のどかな農村風景を維持していた。江戸時代流刑の地であったが、豪雪を乗り越えるために合掌造りの家屋を建て、その2階で養蚕を営むとともに、蚕の糞を活用ながら煙硝を生産して加賀藩に納めていた。地域の特色を日々の生活、産業に反映させた先達の知恵、取り組みに感服できる。

 さらに、高山ではバリアフリー観光への取り組みを見た。超高齢社会を迎える高山では「住みよいまちは、行きよいまち」をキャッチフレーズに、関東在住の障碍(しょうがい)者、外国人などのモニターを招き、市内を周遊する際に感じた問題点を収集して都市整備に反映させる。その過程では、今後の観光動向の調査を踏まえた市長のテーマ設定、リーダーシップが大きな役割を果たしたといえる。

 また観光を行う上で重要な街並みも、重伝建地区による法規制に加えて住民の自発的活動による街並み保存会の活動が大きい。さらに、江戸時代に街並みが整備され十分な道路空間があったこと、豪商の存在などによってもともと質の高い建造物であったため建て替えの必要性が低かったこと、商業発展地域は別の町内に移ったことなどが、当時をしのぶことができる要因としてあげられる。

 観光地でおいしいものを食べ、土産を購入し、気の合った仲間と楽しむことも重要であるが、その地域地域の歴史、先達の取組みに思いをはせ、空間を体験することは、自らの地域に対する新たな視点、興味を喚起させるに違いない。






(上毛新聞 2011年9月20日掲載)