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◎魅力ある産業観光資源 今回は大間々町を紹介したいと思う。みどり市大間々町は旧山田郡大間々町である。私は旧勢多郡東村の出身であるが、中学時代の3年間を大間々中へ通った。私にとっての大間々町は“薫る街”という印象が強く残っている。 当時の通学ルートをたどってみよう。足尾線で通っていた私は、まず大間々駅を降りて真っすぐに歩き出す。朝のすがすがしい気分の中で醤油(しょうゆ)屋さんの土塀の路地を通る。香ばしい醤油のいい香りがしてくる。寝坊して朝飯抜きでここを通ると、腹が余計に鳴るような気がした。次に漂ってくるのはお酒の香りだ。造り酒屋さんの裏路地を通るのである。中学生の私にとっては、未知の大人の香りとして匂ってきた。そして次が、温かな湯気と共に匂ってくる製乳工場からの牛乳の香り。冬の赤城おろしをまともに受けた時など体が温まるようであった。そして、そろそろ目的の中学校にたどり着くのであるが、極め付けは同級生の女の子たちのそよ風になびく黒髪の香りであった。 香りで記憶がよみがえることが時としてある。脳裏に焼き付く記憶というのは映像であったり、言葉や音であったりするのであるが、香りの記憶もまたかなり鮮明にどこかに焼き付いているようである。 私に幼いころ大間々町を“薫る街”と印象付けたその香りは、一つを除いては生産現場や産業製品の香りであり、それらは産業観光の資源そのものなのである。大間々の街中にはこのように魅力ある資源があちこちに散在している。 この地へも何度か訪れ講演会等をしてくださったこともあるJR東海の社長、会長を歴任された須田寛さんは産業観光についてこう語っている。「産業観光とは、歴史的文化的価値のある産業文化財、生産現場及び産業製品を観光資源とし、それらを通じて物づくりの心に触れると共に、人的交流を促進する観光活動をいうのである。人間は生産のない所では生活できないとすると、われわれの生活にかかわるあらゆるものが観光対象となる可能性をもち、産業観光はその原点を訪ねるもっとも人間的な行動であると言えるのではないだろうか」と。 あかがね街道の宿場町であり、今多くの観光客を集めつつあるこの町は、街の中へ足を踏み入れると驚くほどの蔵屋敷が点在していることを知る。これら全てが産業遺産であり産業観光の資源である。 10月後半になると、ながめ公園で半世紀以上続いている関東菊花大会が催される。まさに菊香る大間々町になるわけであるが、菊の香りだけでなく、それ以外の香りも楽しんで大間々の街並みを散策してほしい。黒髪の香りのかすかに残るみどり市観光ガイドのご婦人たちが散策のお供の準備をしている。 (上毛新聞 2011年9月24日掲載) |