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中之嶽山岳会長  飯嶋 常男(下仁田町上小坂)



【略歴】甘楽農業高(現富岡実業高)卒。25歳で山岳会に入り、妙義山の登山道整備や山岳遭難者の救助に携わってきた。近年は同山や郷土史の調査にも取り組む。


林業の今



◎軌道に乗るか森林再生



 今年4月、県林業公社が前橋地裁に民事再生法の適用を申請したという報道があった。8月には「県林業公社の再生計画案 県負担は157億円」のニュースが続いた。

 森林経営は植林して40~50年後に収入が見込め、山林所有者は植え付け後2代目以降で伐採するのが普通である。林業は代々受け継がれる事業で、苗を植え付けた当人ができるのは植林地管理で除伐(15年)か間伐(25年)くらいで伐採収入は見込めない。

 戦争中に木材の供出が行われ、山には有用な建築材がなくなり、戦後の住宅復興需要に対応できず、木材の輸入も認められたが、1980年ごろまで木材相場は高止まりで推移した。相場の好景気が継続する中、国の政策で「国土保全・水源涵養(かんよう)・植林による災害防止・分収造林」の受け皿として公団・林業公社が全国的に設立され、本県でも1966年に林業公社が設けられた。

 しかし、公社・公団が植林した間伐収入が見込めるころには木材相場は下降に向かい、林業は衰退。従事者の廃業や他産業への移動で人件費は年々高騰し、公社や山林所有者は収入を期待できない状態となった。1980年以降、現在まで相場は下降傾向で推移している。

 近くの山林所有者が昨年、トラックじか付けで運搬できる山林を皆伐し原木市場へ出したが、相場が安く、伐採搬出経費が賄えただけで所有者の収入はゼロだった。次年度の植え付け経費(補助金あり)や下刈り経費も当然、賄えない状態である。この現状が林業が抱える問題である。

 戦後植林した木材が伐期を迎えても所有者は誰も山仕事に従事せず、間伐を行っても搬出に多大な経費がかかり、山に打ち捨てておくのが現状だ。本年度から県の事業で原木を「AB優良材、C不良材」のランク付けで、C不良材も買い取る制度を立ち上げたが、C材の買い上げ価格が伐採搬出、運送コストに見合わなければC材が収集されず、山に放置されることも考えられる。

 山林には、燃料や建築材としての利用はもちろんのこと、地球環境保全や地域に重要な水源涵養の役割が認知されている。昭和30年代からの国の林業政策(分収造林)は失策で、全国の林業公社の債務残高は1兆円規模に上るといい、既に整理解散した公社もある。延命事業で長引かせても負債を増大させることになるのではないか。

 円高傾向の長期化により輸入木材が有利な状況が続き、国産木をはるかに下回る可能性もある。県が取り組んだ森林再生事業が軌道に乗るか、林業者が自前で伐採搬出できる体制の整備が必要だ。









(上毛新聞 2011年10月8日掲載)