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ライフ・プランニング・センター「新老人の会」群馬支部事務局長
                              吉江 福子
(前橋市上小出町)



【略歴】旧吾妻町出身。渋川女高、昭和大薬学部卒。薬剤師。介護支援専門員。病院や福祉施設、調剤薬局に勤務し、「新老人の会」群馬支部事務局長として活動する。


思いを具現化する



◎「感謝」を背負って進む



 「具現化」という言葉があります。具体的に実現するという意味で、モノに限らず、思想や夢なども含まれているようです。

 10月1日に高崎市で「新老人の会」群馬支部主催の恒例のピンクリボン運動の街頭キャンペーンと講演会を開催しました。乳がん早期発見のためのマンモ検診運動は世界中に広がっています。日本人の16人に1人が罹患するといわれ、キャンペーン中にも、ご自身やご家族が乳がんだと真剣に話す方もいました。

 私が乳がんを見つけたのは異様な痛みを感じた時が二度あり、そのあと数カ月した時にしこりのようなものが大きくなっていると気づいたからです。気になりながらも半年以上放っておきました。しかし、あまりにも気になり、研修医だった息子に相談しました。息子はすぐに大学でご指導いただいている専門の先生に相談し、「がんの可能性が高いのですぐに受診するように」と言われました。その時の私は「そのうちにいくから」という軽い気持ちでした。しかし、3人の子供たちの連携は見事で、5分ごとに「病院に行って」と電話があり、うるさくて仕事になりませんでした。それで「息子のいる大学なら行く」と条件をつけて京都に向かいました。子供たちがやっと社会人になってほっとしたと思ったらがんです。「なんと運の悪いことだ」と思いました。しかし早く検診したことでリンパに転移もなく、5日仕事を休んだだけで5年半の月日が流れ、今では傷さえもなくなりました。

 その間にたくさんのがん患者さまに会いました。悲しい別れもありました。その方たちの無念の気持ちを思い「私なりに出来ることは何か」を探すようになりました。「新老人の会」の活動は私の思いと重なることも多いのです。私の夫は大学病院で仕事中に、くも膜下出血で急逝しました。3人の子供たちが小学生の時です。その夫の命日が偶然にも私の手術の日でした。彼もまた医師としての思いを中断せざるを得なかったのです。

 「思いを具現化する」ことは並大抵ではありません。しかし、その道を目指し努力していくのが、生きているということなのだとも思います。日野原重明会長は常に思いの具現化に向けて進んでいます。今月16、17日には三重県の伊勢で100歳記念の「新老人の会」1万人フォーラムを開催します。思いを常に具現化される日野原会長なのです。その会長の言葉の中で私の好きな言葉があります。「大きな円を描いてその中の弧になりなさい」です。それはお父上の言葉でもあったそうです。「思いを持ち、具現化していくこと」は永遠で、多くの人の力で進み、常に「感謝」という言葉を背負いながらいくものだと私は思っています。







(上毛新聞 2011年10月16日掲載)