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別府大文学部教授  丑木 幸男(大分県別府市)



【略歴】県文化財保護課、県史編さん室から武尊、渋川女子、中央各高校教諭を務めた後、国文学研究資料館史料館長、アーカイブズ研究系研究主幹などを歴任。


アーカイブズ像の変化



◎重要視で活動が多様に



 文書館関係団体の全国歴史資料保存利用機関連絡協議会(全史料協)の全国大会が27、28日に高崎市で開かれる。公文書管理法生みの親である元内閣総理大臣、福田康夫氏が記念講演「公文書管理法への思いと期待」をするという。興味深い大会となるだろう。

 最近のアーカイブズに関する動向の変化は著しい。百年に一度の金融危機とか千年に一度の大震災とか未曽有の出来事が続いているが、アーカイブズの世界でも60年に一度の出来事が起こっているようだ。

 史料保存の対象は歴史解明の古文書であったのが、公文書管理法は現代公文書を「民主主義の根幹を支える」と、国民の知る権利を保障する現在の課題解決のために重要と位置づけた。

 そのためにかつては、公文書ととも民間の古文書を収集・保存して、地域社会の歴史情報資源センターの役割を果たす地域文書館として都道府県や市町村が設置した。

 それに対して特に小規模な市町村文書館では民間資料にまで手がまわらないため、公文書だけを対象とする組織内アーカイブズとしての設置が増加した。

 しかし、一人の人間が存在したことの証しがアーカイブズであり、この世の中にあるアーカイブズの大海のなかでは、公文書はごく一部にしかすぎない。大震災後に救出されたアルバムやノートを探す被災者の映像が映し出され、アーカイブズの重要性を印象づけた。そうした災害アーカイブズとか、企業アーカイブズ、大学アーカイブズなど専門アーカイブズが数多く設置されている。

 この3年間ほど、大分県中津市へ夏休みに泊まり込みで福沢諭吉の生家から出たふすまの下貼り文書を、別府大学のほか慶応大学、久留米大学、九州大学などと合同調査をしている。

 福沢記念館は諭吉にまつわる諸資料を収集展示している専門アーカイブズである。そのほか中津市では蘭学がさかんであったので医家史料館が二つもある。大分県内には三浦梅園資料館、広瀬(淡窓)資料館などもある。地域文書館・組織内アーカイブズとともに、こうした専門アーカイブズが、多様な活動を展開している。

 いまひとつの大きな変化は、アーキビスト資格制度が発足しそうなことだ。

 公文書管理法の趣旨を実現できるかどうかはわれわれの働きかけが重要である。アーキビスト資格制度も待っているだけでは実現しない。

 アーカイブズの世界で起こっている「未曽有」の出来事を、本来の意味の素晴らしいことにするのは、われわれの行動にかかっているといえよう。 研修会に機会を与えられたので、そうしたアーカイブズ像の変化を話すつもりである。







(上毛新聞 2011年10月17日掲載)