視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
NPO法人・手をつなごう理事長  田中 志子(沼田市久屋原町)



【略歴】帝京大医学部卒。認知症を主とした老年医学専門医師。2008年「いきいきクリニック」開業。認知症啓発に取り組み、県認知症疾患医療センターのセンター長兼務。


認知症の未来予想図



◎治療法進みケアも向上



 認知症にかかわって15年以上たつが、この数年間で認知症を取り巻く環境は大きく変わってきた。20年くらい前には認知症は「痴呆」と呼ばれ、私たち専門家でもどのようにかかわっていいのか分からなかった。目の前で困っている人に対して途方に暮れるケア。お手本となるテキストもケアの見本もなかった。

 しかしその後、「認知症の人の声を聴く」「認知症の人を普通の人としてとらえる」といった考え方に基づくパーソン・センタード・ケアが認知症ケアとしてイギリスから導入され広まった。認知症の人の状態は環境や周囲の人の言葉のかけ方や表情でよくすることも悪くすることもできる。画期的な考え方だった。

 一方、認知症に関する医療も大きな変化を遂げつつある。やはり15年前には認知症に対する治療薬は日本にはなかったが、のちにアルツハイマー病治療薬のドネペジルが販売され、この夏からはメマンチン、リバスチグミンが加わり、3種類の薬が処方できる。

 しかも、飲み薬か貼り薬か、薬の形態を選ぶことができたり、一日の内服回数(1回か2回)を選択できたりと、生活習慣や患者さんの症状に合わせて選択肢が広がった。

 これから認知症を取り巻く状況はますます進化し続けるだろう。認知症を引き起こす疾患別のケアや治療方法の確立、脳の障害の部位ごとの症状の解明、さらなるケアの向上や工夫。そしてまもなくワクチンの臨床現場への普及。さらに病態解明が進むことで、病気に先制攻撃をかける治療の開発が始まっている。

 私が描く認知症の未来予想図ではいつかきっと、認知症にかかることは深刻なダメージではなくなる日が来ると期待している。合わせて私たちに今できる認知症予防をみんなで考えたい。それは生活習慣病からくる認知症を予防すること、バランスよく食べて、適度に運動し、人生を楽しむこと。日々こうした意識を持って生活したいものである。

 なにしろ若年性認知症の原因疾患は脳血管性認知症である。脳血管障害は生活習慣の改善で防ぐことができるので自分の日頃の血圧や血糖値、コレステロール値が正常範囲にあるかを知ると同時に、自分でできる簡単な測定として体重の管理をし、脳血管障害を防ぎたい。

 認知症になることは大変なことではあるが決して悲しむことではない。そんな日が来ることをずっと期待している。そして、今現在、認知症になっている方やそのご家族が周囲に理解され孤立することなく、まちぐるみで支えることができるような地域が増えていくことを祈っている。






(上毛新聞 2011年10月20日掲載)