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群馬大大学院工学研究科教授  鵜飼 恵三(桐生市相生町)



【略歴】宮崎県生まれ。東京工業大大学院修士課程修了。群馬大工学部建設工学科助教授などを経て1992年に同大教授。日本地すべり学会長。工学博士。


原発事故とエネルギー



◎太陽光発電の普及期待



 原発への抵抗が高まる中、自然エネルギーによる発電がますます注目を集めている。その中でも太陽光発電への期待が大きくなっている。このような風潮に影響されて、桐生のわが家でも太陽光発電を導入することにした。発電容量は3・3キロワットで、一世帯の標準的なものである。

 太陽光発電で生まれた電力は、今年度については家庭で使用した残りの電力(余剰電力)を電力会社がキロワット時あたり42円で買い取ることが義務付けられており、これが10年間保証されている。試算すると、10年間で設置費用を賄うのは難しく、元を取るには15年間ほど必要になる。ただし、太陽光による発電量などを表示するモニターが家屋内に設置される予定であり、これを見れば家庭の電力使用量もわかるらしい。この表示が節電を促すため2次的な効果を生んでいるというのが業者の説明であった。 この欄で以前述べたように、太陽光発電は、消費電力がピークになる夏季の晴天時の昼間に、最も効果を発揮するという特徴を持っている。発電設備の規模はピーク消費電力により決まるので、太陽光発電の活用は発電設備の小規模化にも役立つという効果がある。これは社会的なコストの大幅な低減につながるため、その普及が一層望まれる。

 今年の夏は、社会全体の節電への取り組みが成功して停電を免れた。真夏の8月10日時点で東京電力管内の電力供給量は5460万キロワットであり、そのとき稼働していた原発は柏崎1、5、6、7号機のみであった。それら原発の設備容量は380万キロワットなので、電力供給量に占める原発の寄与は7%以下に過ぎなかった。

 柏崎原発は来年の夏前にすべて定期検査に入る予定なので、原発の再稼働が許されなければ、東電管内では来夏から原発に頼らない生活が必要になる。その場合、今年以上の節電、代替エネルギーの導入、夏季に電力消費量が多いエアコンや冷蔵庫の省エネ型への買い替えなどにより、対応するしかないだろう。

 一方、原発事故直後の節電が緩和されたとたんに、東京では、乗客が少ない昼間にも電車を3~4分間隔で走らせ車内電灯をすべて点灯する例が増えている。オフィスビルの多くも同様で、以前の無駄なエネルギーを大量消費する社会に戻りつつあるように見える。

 今回の原発事故で、大量の電力消費や大量の商品の製造や消費などが経済を発展させて雇用を生み、人々の生活を向上させるという単純な図式が成り立たないことが明確になった。無駄の削減と質的に満足できる生活及び安定した雇用が同時に成り立つような仕組みづくりがわれわれに求められている。






(上毛新聞 2011年10月21日掲載)