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和歌山地方気象台長  阿部 世史之(和歌山市)



【略歴】富山県八尾町(現・富山市)出身。気象大学校卒。仙台管区気象台予報課長、気象庁予報部予報官、前橋地方気象台長などを経て、今年4月から現職。


新しい平年値の特徴



◎近年の気温上昇を反映



 平年値は日々の気象(気温、降水量、日照時間など)や月・季節の天候(猛暑、少雨、日照不足など)を評価する基準として、また観測地点の気候を表す値として利用されます。気象庁では、西暦年の一の位が1の年から続く30年間の平均値をもって平年値とします。これをその統計期間に引き続く10年間使用し、10年ごとに更新します。

 今年5月17日まで、1971年~2000年のデータによる平年値(以下、旧平年値)を使っていましたが、翌18日から1981年~2010年のデータによる平年値(以下、新平年値)に切り替えました。前橋市(昭和町の気象台で観測)の新旧平年値を、群馬県で関心が高い気温と雷日数で比べてみます。

 年平均気温の新平年値は14・6℃と、旧平年値より0・4℃高くなりました。全国的にもほとんどの地域で高くなりましたが、前橋市の上昇幅は大きい方で、すべての月の平均気温も上昇しました。真夏日(日最高気温30℃以上)の年間日数は52・3日と4・6日増加し、逆に冬日(日最低気温0℃未満)の年間日数は50・5日と6・9日減少しました。

 これらの要因として、温室効果ガスの増加に伴う地球温暖化による長期的な昇温傾向に、数十年周期の自然変動の影響と都市化の影響も加わり、1980年代後半から急速に気温が上昇していると考えられます。

 前橋地方気象台に勤務していたとき、多くの人から「昔はもっと雷が多かった」とうかがいました。前橋市の年間の雷日数は、1931年~60年のデータによる5代前の平年値で24・4日だったのが、4代前は21・6日、以下19・7日、18・7日、19・0日となり、新平年値は20・4日です。毎年の雷日数を見ても、1950年代から減少傾向になって80年代に最も少なくなりましたが、最近はやや増加しています。

 群馬県は内陸型気候なので、雷の発生は7月と8月に集中します。雷をもたらす積乱雲が発達するためには、水蒸気と強い上昇気流が不可欠です。水蒸気に関係する相対湿度が1950年代から低下していることが雷日数の減少に影響したのかもしれませんが、真夏日の日数が増えて強い上昇気流が発生しやすくなったことが近年の雷日数の増加傾向に関係し、短時間強雨の増加にも影響しているのではないかと考えます。

 新旧の平年値の違いには、使われなくなった1971年~80年と新しく加わった2001年~10年の差、すなわち近年の天候の特徴が反映されています。気候変化の状況把握にあたり、平年値にも関心を持っていただけたらと思います。10年後の次代平年値はどのような特徴を見せてくれるでしょうか。地球温暖化などの影響が小さいことを願いたいものです。






(上毛新聞 2011年10月28日掲載)