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建築家・著述家  武澤 秀一(東京都国分寺市)



【略歴】前橋市出身。東大卒。工学博士。1級建築士。設計活動とともに東大、法政大で講師を兼任。現在は放送大学講師。著書に「伊勢神宮の謎を解く」(ちくま新書)など。

「シャッター通り」問題2



◎中心市街地を「森」に



 県都前橋で深刻化している「シャッター通り」問題、つまり中心市街地の空洞化への対応には、大きく二つの方向があることを前回述べた(9月16日付)。第1は、中心市街地をあくまで商業地として復興させる方向である。第2は、中心市街地に別の性格付けをする方向である。第1の方向については前回述べたので、今回は私の構想する第2の方向について述べたい。発想を180度転換し、商業地としての復興を放棄する。そして「シャッター通り」化した中心市街地を「森」にしてゆくのである。

 はて、「森」の構想とは―。シャッターが下りたままの店舗の土地を、市なり第三セクターなりが買い上げるか借り上げるかする(その方式はさまざまあり得る)。そこに何年もかけて順次、木を植えてゆくのである。土地・店舗所有者の意思が十分に尊重されるのはいうまでもない。賛同するシャッター店舗が増えてゆけば、植樹面積は年々増大し、やがて中心市街地は広大な「森」に―。もちろん、従来通り営業を続ける店舗があるのは大歓迎だ。そういう店は、もともと体力があって今日まで生き延びている。周囲が「森」に包まれるとなれば、あたかも軽井沢におけるようなショッピング感覚が生まれ、店は今より輝きを増すことだろう。

 前橋の中心市街地は起伏に富む。中央通りなど、かなりの坂だ。また、広瀬川の流れは豊かな水量を誇る。これを「森」と関連づけることも可能だ。「森」の中を下る坂、流れる川、木漏れ日、野鳥のさえずり…。「森」化は市街地化される前の状態に、仮想的にいったん戻る試みでもある。「森」化が進んだ段階で、文化施設や医療・福祉施設を導入する。かつての中心市街地が、少子高齢化都市の中心ゾーンに生まれ変わる。市の標語「水と緑と詩のまち」を体現する一大シンボル・ゾーンが、市の中心に出現する―。

 何をとんでもないことを、と驚かれるだろうか。しかし、よく考えていただきたい。現在も深く静かに、かつ圧倒的な勢いで進行しつつある少子高齢化。これに伴う社会の縮小化は避けられないことに思いを致そう。一人ひとりが日々の生活の中に充実の時を実感し、「豊かな清貧」を見いだす価値観とライフスタイルが求められている。その方策として、既存環境の整備と活用の必要性を述べてきた(昨年12月3日付拙稿)。中心市街地を「森」として再生することはまさに打ってつけの策ではないか。進行する社会縮小化の過程に自然の再生と文化的成熟を織り込み、本当の豊かさに近づく試みである。

 一見、後退に見えて実は、縮小化の進む全国各地に先駆ける先進モデルと位置づけられる。パイオニアとしての取り組みになることは間違いない。






(上毛新聞 2011年11月6日掲載)