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◎遺伝子動くプラス思考 子供たちとまりをついて遊んだ禅僧良寛は「まりつき法師」とも呼ばれ、多くの人々に慕われてきました。その良寛は毎日托鉢(たくはつ)に出ています。それは、釈迦が毎日行っていた乞食(こつじき)の行を自分もすることで、釈迦と一体化しようとした良寛の修行でもあったのです。その托鉢をしているとき次のような逸話が伝えられています。 「良寛さんが渡し舟に乗って川を渡っているとき、川の真ん中で船頭がいたずら心を起こし、舟をグラグラとゆらしました。良寛さんはいつどんなときでも『けっこう、けっこう』とニコニコしているだけで、決して怒ることがありません。そこで船頭はわざとひどいことをして怒らせてやろうとしたのです。 船頭が舟をゆらしたせいで、良寛さんはバランスを失い川に落ちてしまいました。良寛さんは泳ぎが全くできません、たちまち溺れてしまいました。そのままでは死んでしまいそうです。船頭はびっくりして、バタバタする良寛さんを舟に助け上げました。 もとは船頭にわざと落とされたのですから、いかにお人好しの良寛さんでも少しは怒りそうなものです。ところが良寛さんは頭をペコペコさせて『いやあ、ありがとう、ありがとう、お前さんが助けてくれなきゃ私は死ぬところだったよ、お前さんは命の恩人じゃ』。これには船頭もあきれ果ててしまいました」 それにしても川に落とされながら、落とした張本人にお礼をいう良寛の振る舞いをどのように理解したらいいのでしょうか。いかに良寛がぼんやりしていたとしても、自分がどうして川に落ちたかはわかるはずです。ふつうの人なら大いに怒るところですが、良寛は船頭の悪い面には目もくれず、いい面ばかりを見て、怒るというマイナス思考には見向きもしていません。自分を助けてくれたことだけを見て感謝するという極端なプラス思考です。このプラス思考が不可能を可能にするというのです。 世界的に有名な遺伝学者の村上和雄さんは、ご著書『生いのち命のバカ力』で、良寛のこの岩をも貫くようなプラス思考の一念は、今まで眠っていた遺伝子を目覚めさせると言っています。その目覚めた遺伝子が働くことで、それまで不可能であったことを可能にすることができるといいます。その不可能と思われたことの中には、がんを治す遺伝子も含まれているというのです。 強烈なプラス思考ががんを治す遺伝子を起動させ、進行したがんであっても死なないようにするばかりか、がんの自然治癒さえも起こし得るといいます。プラス思考が今まで眠って休んでいた、がんを治すがん担当リンパ球の活動を開始させるというのです。 (上毛新聞 2011年11月8日掲載) |