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県がん患者団体連絡協議会企画委員  篠原 敦子(前橋市箱田町)



【略歴】前橋市生まれ。『光満つる葉月、切除』が第6回開高健ノンフィクション賞最終候補に。『その夏、乳房を切る めぐり逢った死生観』と改題し創栄出版より発刊。


県がん対策推進条例



◎制定に患者委員が奔走



 県がん対策推進条例(以下、がん条例)が公布されたのは2010年の年の瀬だった。

 しかし一部の患者たちはそれ以前から、がん政策の事例を調べて全国を行脚し、県内のがん医療の現状をブログで訴えてきた。そうした水面下の努力が県がん患者団体連絡協議会(以下、がん連協)へと引き継がれ、条例作りを視野に入れた委員会が設けられた。

 患者会のアンケートでは「がん予防や検診の大切さを義務教育に組み入れるべきだ」「がんの経験者によるがん患者のサポートが必要」など、一般からの意見を含めいくつかの課題が浮かびあがった。一方、こうした問題に詳しい人々から「予算と人がつかなければ条例も絵空事に終わる」「条例が生かされているかどうかチェックする機能が必要だ」などの知恵が授けられた。

 県会議員たちが患者会の聞き取り調査を行った際、1人の患者から「ご家族にがんにかかった人はいますか?」の声がかかり、ほとんどの議員が手を挙げた。今や2人に1人がかかるがんという病に、どう立ち向かってゆくかは、長寿社会の重要な分かれ道になる。

 しかしそのような切羽詰まった空気が行き渡っていたわけではない。同時期に開催された市民講座「がんに強い群馬をつくろう」では、患者やその家族から寄せられたメッセージはたったの3通だった。治療の不安、行政への要請を公的の場で訴えるまたとないチャンスだったのに。

 東京都日の出町では商業施設が莫大(ばくだい)な収益を上げ、その税収によって町民のがん治療費を無料にした。このままではがん対策の地域格差は広がる一方だ。群馬にも条例ができれば、ひっそりと末期を迎えようとしている患者が、光に包まれながら往生できる日がきっと来る。1人でも多くが患者サロンに足を運べば、その声が行政に響くのだ。

 ある日のがん連協のお昼の会議で、食道がんの患者の委員がヨーグルトと果物をほんの少し口にし、これにて食事を終わり、としていた光景が忘れられない。後遺症と睨み合いながらの働きだった。人生経験を生かしてがん条例の制定に貢献したい、その使命を果たすまでは死ぬに死ねない。熱中症による死者の数が毎日のように報じられていた2010年の夏、奔走していた患者の委員たちからは執念さえ伝わってきた。

 やがて冷え込み厳しいその年の冬、県議会でがん条例が採決された。「がん相談支援センターの充実」「働きながらがん治療を受けられる環境の整備」など、患者の要望が事細かに反映されたものとなった。

 以降、がん対策推進協議会で条例実施の話し合いが持たれ、患者の委員は今、理念と現状のギャップに頭を抱えながらも活動を続けている。







(上毛新聞 2011年11月15日掲載)