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和紙ちぎり絵作家  森住 ゆき(埼玉県熊谷市)



【略歴】桐生市出身。1984年偕成社「絵本とおはなし新人賞」、85年群馬県文学賞児童文学部門受賞。著書に『アメイジング・グレイス』『ぶどうの気持ち』。


手染め和紙の存続



◎子どもたちの画材に



 手漉(てす)き和紙をちぎった瞬間に現れる、優美で繊細な表情に魅了されたのは、グラフィック・デザイナーとして前橋市で働いていた20代のころです。いわゆる伝統工芸風ちぎり絵ではないものを制作したくて、自己流で始め、そのまま現在に至りました。

 和紙は職人さんが色染めしたものを専門店で購入します。群馬に住んでいたころは、日本の切り絵画壇の巨匠、関口コオ氏御用達の和紙専門店が高崎市にあり、美しい染め和紙に出合う環境が整っていたことは本当に幸運でした。

 私が心惹(ひ)かれるのは、複数の染料が微妙に入り交じって生まれる、手染め和紙の流麗な美しさです。それは瞬間の産物で、二つとして同じものがありません。そんな和紙を作品に活いかせた喜びは格別ですし、和紙自体に触発され作品が生まれることもあります。

 ところが近年、和紙店に置かれている染め和紙のバリエーションが徐々に縮んでいることに、私は強い不安を感じています。

 現在住んでいる埼玉県には、東秩父地方に伝統的な和紙の産地があります。それが県内外の和紙店へも卸されるのですが、聞けば、和紙の手染めの職人の高齢化が進み、担い手が急減しているというのです。

 その職人とは、実は和紙産地周辺の農家の方々であり、和紙の手染めは農閑期の副業として、納屋の片隅で細々と続けられてきた営みなのだそうです。

 大都市には独自の工房を持つ老舗もありますが、地方はどこも同じ状況のようです。いずれ手染め和紙の流通は止まり、希少な文化財のようになってしまうのでは、という気がします。

 私は長年、キリスト教系出版社の月刊誌の表紙等を中心に、印刷物に絵を提供する仕事を続けてきました。原画は光源で変色しやすいため、慎重に手元で保管し続けてきましたが、今後は少しでも多くの方に、和紙自体の美しさを直接見ていただく努力もしなければ、と考えています。素晴らしい和紙を生み出してくださった、どこの誰かももうわからない「納屋の染め職人」の方々への、心からの敬意と感謝をこめて。

 群馬県には桐生和紙という素晴らしい紙があります。和紙産業の存続には需要の裾野を広げることが欠かせませんが「義務教育の中で、子どもたちに和紙を画材として惜しみなく与えてみる」のはどうでしょう。

 ちぎり絵を教えるのではありません。現代の子どもは学校で身近な素材を用いたモダンアートの授業を受けており、意表をつく作品を生み出す子がいます。校外学習で短時間「紙漉き」を体験するよりはずっと、日本古来の和紙の魅力に目を開かれる、若い世代が出現する可能性が高いように思いますが、どうでしょうか。







(上毛新聞 2011年11月24日掲載)