視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
樹木医、万葉園グリーンサービス経営  塩原 貴浩(前橋市田口町)



【略歴】前橋高、東農大院修了後、京都の「植藤造園」で修業。2003年、28歳で樹木医に。家業の造園業の傍ら、桜を中心に巨樹・古木の診断・治療に当たる。


「害路樹」にしない



◎長期視点で管理・育成



 都市部に生活する住民にとって最も身近な緑といえば街路樹であろう。街路樹は、われわれの生活に潤いや安らぎをもたらしてくれる一方、先の台風15号の際には車両を押しつぶしたり、大規模停電を引き起こしたことも記憶に新しい。

 これら倒木の直接の原因は樹木の材部を腐らせる腐朽菌であるが、その侵入経路をたどると、人為的な誘因が多々ある。例えば、道路の工事時に根元を掘削し、太い根を重機等で傷付けそのまま埋め戻すと、傷口から腐朽菌が侵入し、根株腐朽の原因となる。土の中で見えない部分なので、発見が遅れ、強風や積雪などの物理的な力が加わると、ある日突然、倒木の悲劇が起こる。また、不適切な時期の強剪定(せんてい)によって枝の傷口の癒合が遅れ、腐朽菌が侵入し、幹の途中で折損することもある。

 街路樹は道路の構造物だが、扱う上では生き物であることを認識してほしい。生き物である以上、取り扱いには最適な時期と方法がある。例えば、剪定の最適期は常緑樹は初夏、落葉樹は秋から冬の落葉期、針葉樹は秋季及び春季と、樹種により異なる。しかし、予算や年度という人間側の都合で不適期に作業が行われる場合もある。本紙に街路樹の緑陰効果についての記事が掲載された日、葉を1枚も残さないほどの強剪定を行っているのを見かけた。夏は樹木が光合成を盛んに行い、養分を蓄える時期である。紅葉の美しい樹種を落ち葉が迷惑という理由で秋が来る前に丸裸にしてしまうことも度々ある。植栽する目的はさまざまだが、これではせっかくの役割を果たせない。

 以前、広瀬川沿いの柳を、枝を残しながら剪定したところ、切ったように見えないとの理由で幹まで全て切り戻した苦い経験がある。樹木には本来、樹種ごとに自然な樹形があり、それを崩すとせっかくの観賞価値がなくなってしまう。もし庭木をこのように無残な姿にされたら、代金を気持ちよく支払えるだろうか?

 もう一つ、樹木は成長することも忘れてはいけない。植栽したての段階では細い小さな個体も、年数を経ると幹は太り、樹高も高くなる。上部の電線に接する度に同じ位置で切られ、大きな瘤(こぶ)を形成し、狭小な植え桝(ます)でアスファルトに囲まれ、苦しそうに根が歩道を持ち上げている。本来なら計画段階で10年先の姿を想像し、樹種の選択、植え桝の広さや深さなど良質な植栽環境を作る必要がある。管理の面では、定期的な専門家の診断と共に、異常落葉や病害虫の発生、枝や幹の折損などに気付いた時の連絡体制の確立が必要である。街路樹として植栽した樹木を「害路樹」にしないためには、行政、施工業者、地域住民の強い結びつき、そして、長期的な視点で管理・育成計画を立てることが重要である。







(上毛新聞 2011年11月25日掲載)