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元・東北大大学院助教授  高橋 かず子(甘楽町小幡)



【略歴】東北大大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。東北大で機能性有機化合物の開発研究に取り組む。1997年から甘楽町のかんらふるさと大使。


想定外でなかった津波



◎各分野一体で安全策を



 日本三大実録という古文書に、今から1142年前の西暦869(貞観(じょうかん)11)年7月13日に大地震に続いて巨大津波が発生し、仙台平野から福島県に及ぶ広範囲で浸水し、1000人を超える死者が出たという記録が残されています。

 1990年に東北大の箕浦孝治教授らは仙台平野の地層の発掘調査を行い、津波堆積物が仙台平野の広範囲に分布しており、その堆積物に含まれる木片の放射性炭素の年代調査から、それらが貞観津波のものであることを突き止めました。また、同様の砂層を相馬市でも発見し、貞観津波は宮城県沖から福島県沖までの広範囲に及んでいたことを科学的に証明しました。

 その後、2001年から07年には、東北大の今村文彦教授らとの共同研究で、貞観津波では仙台平野に最大9メートルに達する津波が襲来し、相馬市の海岸では、さらに高い津波が来たことを明らかにしました。加えて、堆積層の中に3層の津波砂層を発見し、その年代測定から過去3千年間に、800年から1000年に1度の間隔で3度の巨大津波が襲来したという発生の周期を解明しました。

 産総研の岡村行信教授らは2005年から09年にかけて、貞観津波の浸水域を正確に復元し、福島県南相馬市小高区や富岡町、浪江町諸戸地区の津波遡上(そじょう)距離を求めました。貞観津波では宮城県沖から福島県沖にかけての日本海溝沿いのプレート境界面で長さ200キロメートル程度の断層が動き、マグニチュード(M)8以上の地震があったことを突き止め、貞観津波から1142年が経過している今日、いつ巨大津波が起きてもおかしくないと予告しました。従って、今年3月11日の巨大津波はこの予告が的中したのであり、決して想定外ではないのです。

 この研究成果は地震や津波の専門家や研究者、報道関係、原子力安全委員会、経済産業省、東北電力、東京電力などに伝わっており、女川原発では早くから津波防災対策に取り組み、07年にその経過を発表しました。しかし、09年の原子力安全保安院主催の会議では、岡村氏が福島原発でも緊急に津波対策を強化するよう、繰り返し執拗(しつよう)に訴えましたが、東京電力側は取り上げず、その結果、3月11日の津波では女川原発と福島原発の明暗がはっきりと分かれました。

 しかも、今回の災害では広範囲で津波にのまれて多くの死者が出ました。原発の安全性を確保し、津波災害から人命を守るには、大学、研究所、電力業界、地方自治体及び政治家を含めた分野横断的取り組みが必要です。さらに、自然の脅威に対する国民的認識の向上に向けての教育と正しい科学的知識の共有に基づいた世論の支持が必要であり、この機会を逃さず、今後の努力が必要と思います。






(上毛新聞 2011年11月29日掲載)