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◎群響で経験積み全国へ 男性のなりたい職業の一つが「オーケストラの指揮者」だそうだ。私は日ごろから、各地のオーケストラでたくさんの指揮者に作品を指揮していただいているのだが、指揮者によって音がずいぶん変わるので、驚くことが多い。みなさんの知っている曲で言えば「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」で有名な『運命』の冒頭。あそこなどはテンポや間の取り方、楽器の組み合わせのバランス、迫力等が指揮者によって全く異なる。それらを指揮棒の動かし方だけで描き分けるのだから、指揮者という職業は大変奥が深い。 ところで、プロのオーケストラの主要なレパートリーは、3分程度の作品から1時間以上の大交響曲まで300曲以上。これらを組み合わせて年間100回以上ものコンサートで演奏するのだから、奏者の音楽性の幅広さ、技術的な対応力は大変素晴らしい。熟練奏者の経験値も音楽的に重要な財産で、長い歴史がある群馬交響楽団の場合もそういう長所を持っている。 そうなると、指揮者に求められる音楽性は相当ハードルが高くなる。若い指揮者が有名曲を初めて指揮する時など、かなり緊張するそうだ。何しろ奏者の方は、世界中から招かれる指揮者のもとで何度も演奏し、曲を熟知している。知らないのは指揮者だけ、なんていうことも! 下手に格好付けたりしたら、すぐに見透かされる。これを克服するのは、やはりプロの指揮者としての経験値だ。 各地のオーケストラから招かれて指揮をし、オーケストラアンサンブル金沢の専任指揮者でもある鈴木織衛さんから、面白い話をきいた。「オーケストラの指揮を、車の運転に例えてみましょう。机の上での勉強だけでは運転はうまくなりません。路上教習での実践的な勉強や、さまざまな条件での運転経験がとても大事なのです」。なるほど、と思わせる言葉である。実践経験を通して基本をマスターした後、次第にさまざまな曲の指揮にトライし、さらにいろいろなオーケストラを指揮する経験を重ねると、初めて“名ドライバー”になれるのだ。 鈴木氏はこうも続ける。「私がその実践経験を積ませてもらったのが、群馬交響楽団なのです」。彼は20代の頃から20年近く群響を指揮している。最初は学校向けの音楽鑑賞教室での指揮が中心だったそうだが、それを継続的に指揮した経験が、今さまざまな仕事をする際に大変役立っているそうだ。音楽鑑賞教室は比較的若い世代の指揮者が担当するが、彼らが「群響を指揮している」と自己紹介すると、ベテラン指揮者は一目置くほどだ。そして彼らはその経験を生かし、その後各地のオーケストラで活躍するようになる。我らの群響が、日本全体の音楽文化の発展にも貢献していることを誇りに思いたい。 (上毛新聞 2011年11月30日掲載) |