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仏師  関 侊雲(前橋市六供町)



【略歴】農大二高卒業後、富山県南砺市の仏師、斉藤侊琳さんに弟子入り。10カ所で教室を開設。著書に『彫刻刀で作る仏像』(スタジオタッククリエイティブ)など。


支えられて生きる



◎感謝の気持ちを表そう



 恩師である仏師、斉藤侊琳先生の下へ20歳で内弟子として入門させていただいてから今年で17年になりました。修行として5年間奉公し、その後も職人として5年間ご指導いただき、仏師号侊雲を命名され独立しました。入門させていただいた頃の私は、単純に仏像造形の美しさに興味があるだけで、仏像の意味や役割、また仏師の伝統や技術の奥深さなど全く知りませんでした。修行をしていれば技術は自然に身につくと考えていた私は大きな考え違いをしていました。

 実際、修行が始まってから数日間は毎日さまざまなことで叱られてばかりで、とても彫刻を学ぶということとはかけ離れているものでした。特にあいさつや返事の仕方、お客さまへの対応、掃除のやり方など、常識的なことを徹底的にご指導いただきました。弟子が学ぶということは師匠や先輩のご指示やご指摘を素直な気持ちで受け入れる姿勢が大切だということを初めに教えていただきました。

 技術的な面はさらに厳しく、分からないところを質問してもすんなり教えてはいただけず「もっと自身で考えなさい」と叱られるありさまでした。初めて彫る仕事を命じられ、どう作業するか分からないので質問すると叱られるわけですから、当初は大変戸惑いました。これが世間でいう「職人の仕事は見て盗んで覚える」という方法でした。

 今になればよく分かるのですが、問題があった際、すぐ人に頼るようでは本当の技術は習得できないということ、また、将来独立すれば全て自身で解決していかなければならないのですから、師匠はこの仕事の厳しさを弟子の私に伝えてくれたのでした。特に仕事には大変熱心な方で、決して妥協を許さず弟子に対しても厳しく、とても献身的にご指導なされました。

 現在、私は仏師として活動させていただいておりますが、その中で最近はっきり分かったことがあります。それは、独立してもなお、常に師匠が私を守ってくださっているということです。斉藤侊琳先生の血のにじむような努力と素晴らしい実績の下にある大きな信用を分けていただき、私も信用を得られているのです。仏師とは、独立後、個人の力で生きていくものだと思っていました。しかし、今の状況を考えてみますと、師匠をはじめ両親や兄弟、友人、教室の方々、その他大変多くの方々に支えられ仏師として成り立っていると実感しています。

 現在、技術の進歩で便利にはなっていますが、半面、あらゆる場面で人と人との触れ合いが失われ殺伐とした雰囲気を感じます。そんな中でも両親や恩人、お世話になっている方々に素直に感謝の気持ちを表せたなら、人はそれだけで心穏やかになり、幸せな気持ちで生きていけるのではないでしょうか。






(上毛新聞 2011年12月2日掲載)