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高崎健康福祉大教授  入沢 孝一(前橋市関根町)



【略歴】渋川高、中京大体育学部卒。嬬恋西中、嬬恋高をスケートの強豪校に育てた。日本代表コーチ・監督も務め、黒岩彰、黒岩敏幸を五輪でメダリストへと導いた。


基礎・基本の徹底



◎選手の感覚を読み取る



 今年の夏、スケートのナショナルトレーニングセンターに指定されている帯広市の屋内スケートリンクで高崎健康福祉大学スケート部の夏季氷上合宿を38日間実施した。ここでは、韓国の10歳から14歳の選手が3週間の日程で合宿を行っていたのでその内容について紹介したい。

 このチームは今年7月、IOC総会で2018年に韓国の平昌で開催が決定した冬季オリンピックでのメダル獲得を目標として選抜されたエリートジュニアチームである。驚いたのは合宿期間中、変わることなく「基本動作の反復練習」に1日の練習時間の半分を費やしていたことである。基礎・基本習得のため、ここまで徹底して実施していたチームを見たことがない。

 「ジュニア期に基本動作を身につけた選手は、能力の90%を発揮して競技生活を終了することができるが、身についていない選手は能力の70%しか発揮できないまま競技生活を終了してしまう」。これは、ノルウェーオリンピック委員会統括コーチが話していた言葉である。

 基本動作の指導では、動作の習熟度を個々の選手に応じて把握しながら次のステップに進む時期を決めていくことが必要である。私自身、ある課題が一度できると自分自身がうれしくなり、次の課題を指示した結果、選手が混乱し、今までできていた動作さえできなくなってしまうことがよくあった。高いモチベーションを保ちながら単調な基本動作を反復練習するための指導の秘訣(ひけつ)はどこにあるのだろうか。

 韓国ジュニア指導者の指導スタイルの特徴は、大きな声と指導時間中に絶えることのない笑顔である。さらに、選手個々の動きの完成度を把握して指示を出し、示範し、励まし、明るく楽しげな雰囲気をかもしだすという選手とのコミュニケーションの素晴らしさである。動きの上達とは、選手が自分で理解し、自分の感覚に置き換えて表現することである。指導者の指摘を選手が勘違いして理解している場合には、同じ課題を練習しているのに動きが違ってくることになる。

 韓国ジュニア指導者は、選手の表面的な動きの観察を通じて、内面的な感覚を把握する能力に優れ、選手とのコミュニケーションの中で個々に応じた修正指導を行う実践能力が非常に高いと感じた。これが選手の高いモチベーションにつながっているのだと思う。

 学ぶべきことは、選手がどのような感覚で動きを表現しているのかを読み取ることに重点を置いて指導していることである。このような指導を行うためには、指導者が「選手との根比べに負けない精神的な持久力」を有することであろう。

 2018年、冬季オリンピックで、ジュニアエリート選手たちの成長した姿を期待したい。






(上毛新聞 2011年12月8日掲載)