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東京芸術大非常勤講師  赤池 孝彦(桐生市東)



【略歴】静岡県出身。東京芸大大学院修了後、文化庁在外研修員など歴任。改装したのこぎり屋根工場を拠点にアートプロジェクト・桐生再演を企画運営する。美術家。


仮設住宅ボランティア



◎居心地の良さ被災者へ



 先ごろ1週間、宮城県女川町で仮設住宅建設のボランティアに参加した。女川は沿岸地域で十分な平地がなく、従来の平屋仮設住宅では十分な戸数が供給できないことから、建築家の坂茂氏が既存のコンテナを積み上げた2~3階建ての仮設住宅を提案していた。それが実現することになったからである。

 坂氏の活動についてはここでは詳しく述べないが、1995年の阪神・淡路大震災のとき作られた「紙の教会」が有名である(現在同じく震災被害にあった台湾に移築されて、地域のコミュニティーセンターとして再利用されている)。その後、支援活動組織NGO VAN(VoluntaryArchitects’Network)が設立されてから、大きな災害があると、その活動報告をホームページで見ることが多くなった。

 東日本大震災直後に参加したボランティア作業は、紙管をジョイントでつなぎ合わせて間仕切りを取り付けることだった。仮設住宅へ移るまでの数カ月間、体育館などの広い空間で大勢の家族がプライバシーのない生活を余儀なくされるからである。これは支援活動の第一段階にあたる。2004年の新潟県中越地震や07年の福岡県西方沖地震から行われている。設営方法は驚くほどシンプルに進化していて、初めて参加する人にもわかりやすい。

 世界的に有名な建築家だからといって、こうした要請があるわけではなく、間仕切りのときも数十カ所の避難所を訪れてはサンプルを置き、希望があれば無料で提供していくというものだった。夏に虫が増えてくれば布地から蚊帳に代えるなどきめ細かく対応していた。資材は募金で賄われている。「たかが仮設住宅の設計でも、建築家が参加することにより、もう少し居心地の良い空間が提供できるはずである」(坂茂著『建築をつくる。人をつくる。』より)

 女川のボランティア作業は、収納家具の組み立てと塗装、そして取り付けであった。既存のプレハブ平屋型の仮設住宅に十分な収納スペースがなく、生活に支障をきたしているからである。また、この仮設住宅の敷地内には著名なアーティストの賛同を得てコミュニティー施設も建設されるという。ボランティアのほとんどは大学生であった。送迎車もあるのに滞在する避難所から工事現場までの周辺を1時間半かけて毎朝歩いて通っていた。いまだに息をのむような現場を目に焼き付けておきたいのだろう。主婦の方々も数名いらっしゃったが、社会人はほとんどいなかった。

 こうした災害が起きてから「私たちに何ができるのか」と呼びかけるプロジェクトもよく目にするが、私は災害が起きたら、VANのホームページを見て、その呼びかけに対応するようにしている。






(上毛新聞 2011年12月9日掲載)