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国立赤城青少年交流の家所長  桜井 義維英(前橋市元総社町)



【略歴】川崎市出身。日体大卒。英国で冒険教育を学ぶ。1983年にNPO法人・国際自然大学校(本部・東京都)を設立。2011年4月から民間出身者として現職。


子どもたちのために



◎心に残る経験させよう



 現在の世の中の様子を基準に、今の子どもたちに、将来役に立つからといって、何かをしてあげてはいませんか。私たちが思っている以上に、世の中は激しく変化しています。それは私たちの予想をはるかに超えたものです。英語の勉強をさせますか? 未来の彼(今の子ども)のために。しかし20年後、世界を席巻している言葉は案外中国語だったりして…。ありえないと誰が言えるでしょうか。現に今、悪者になってしまったフロンガスも、数十年前はすばらしい発見だったのです。ここでひとつの詩を紹介しましょう。

  『彼の名は今日』

 我々は、いろいろな過失を犯し、多くの欠陥を持っている。しかし、我々の犯しているもっとも大きな罪は、子どもたちを見捨て、生命の源泉を無視することである。我々の必要とする多くは、待たすことができる。子どもには、それができない。彼は、現在、彼の骨格は形成され、血が作られ、感覚が育成されつつあるのである。子どもに対して「明日」と答えることはできない。彼の名は、「今日」なのである。

 (ガブリェル・ミストラル GabrielaMistral1889~1957 南米チリの詩人、1945年にノーベル文学賞を受賞)

 今、子どもにしてあげなくてはいけないことは、今、子どもが自然な衝動からしたいと思うことをさせることではないでしょうか。

 では、子どもは何を求めているのでしょう。それは実際の体験や経験だと思います。ドイツの教育学者、クルトハーンは「子供たちに大人の考え方を強いる事は間違いだが、経験を強要する事は義務である」といっています。この経験こそが、自分の人生を決めなくてはいけない岐路に立ったときに、役に立つのです。あえて文字にすれば、価値観と人間愛でしょうか。言葉にすると薄っぺらに感じますが、そこにたどり着くまでのいろいろな体験が幾重にも積み上げられた経験こそが大切なのです。

 皆さんもそんな経験を思い出として持っていると思うのです。ちがう言葉で表現されているかもしれませんが、あなたの体の中や心の中に今も脈打っているでしょう。そんな思い出になるような経験を子どもたちにもさせてあげなくてはいけないのです。しかし、具体的に手に入れる方法がわからないので、つい「明日ね」とか「後でね」と、後回しにします。そして、そこに「あなたの将来のために」と言って、大人の用意した習い事や遊びを詰め込んでしまいます。子どもを信じようではありませんか。私たちがしなくてはいけないのは、子どもの自然な衝動による経験ができる場所と時間と仲間を用意してあげることでしょう。そこで何をするかは、子どもを信じて任せませんか。






(上毛新聞 2011年12月10日掲載)