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独日翻訳者  長谷川 早苗(高崎市吉井町)



【略歴】ドイツ語学校のゲーテ・インスティトゥート東京校やゲッティンゲン校などで約10年間学ぶ。2011年4月に初の翻訳本出版。ぐんま日独協会事務局員。


外国語を学ぶこと



◎異なる考え方にふれる



 世界には多数の言語があり、外国語を学ぶ人も多い。そして、その学ぶ理由もさまざまだ。私がドイツ語を教えてきた人の中でも、「ドイツで働くことになった」「サッカーが好き」「旅行して気に入ったので次は話したい」「詩を読みたい」「ドイツに友人/彼氏などがいる」「とにかくドイツに惹かれる」など、人それぞれのきっかけがある。

 ちなみに私がドイツ語に興味を持ったのは、小学生のときに読んだ本『大どろぼうホッツェンプロッツ』だった。世界中で有名な本で、日本の図書館にもたいていあるので、読んだことのある人も多いと思う。日本の本では見かけないようないかついイラスト、聞いたこともない食べ物、子どもがどろぼうの長い名前を間違えるシーンにわくわくした。

 いまやドイツ語を仕事にしている身にしては、何てことのない理由だ。でも、それでいいのだと思う。語学はまず始めること。そして、続けること。きっかけは何でもいい。

 語学の利点はいろいろあるが、私が思う特に大きな利点は、別の考え方にふれられることだ。

 ドイツに行って、日本で見る「欧米のライフスタイル~」といった文章の「欧米」とは、アメリカのことらしいと気づいた。それまでテレビや映画で見ていたものとは違う習慣や様式、考えがドイツにはあった。いま考えれば当たり前のことかもしれないが、日本にいるときには気づけなかった。ドイツの人には日本人と似て、少し遠慮するようなところがあると感じた。別の立場を知ることでニュースを見る目も変わる。ドイツの学校には世界中から人が集まっていて、そこから受けた刺激も大きい。

 考えなどの違いは言語に端的に表れる。よく言われることだが、ドイツ語は論理的、悪く言えば理屈っぽい。細かな決まりが何かとある。私はドイツ語を学び始めて15年以上になるが、いまだにドイツ語と日本語の似たところ、違うところを見つけるのが楽しくてたまらない。どこがどう違うのかをじっと観察することは、外国語を学ぶ上で大きな手助けとなる。さらに、日本と日本語を見直す機会にもつながり、外から見た日本を考えるようになる。

 外国語の勉強は、たくさんの新たな視点を与えてくれる。異なる価値観にふれ、視野が広がる。これは日本にいて、日本語ででも可能だが、外国語をとおすとさらにダイナミックに体験できる。人が自分と違う考えを持っていると知るのは大事なことだ。私はドイツに行って、日本のはやりに以前ほど振り回されなくなった。外国との違いだけでなく、日本人でも人それぞれ。この考えはきっと自分を楽にしてくれるだろう。





(上毛新聞 2011年12月13日掲載)