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現代芸術家  中島 佑太(前橋市関根町)



【略歴】前橋市出身。中央高、東京芸術大美術学部卒。東京を拠点に活動後、2010年冬から前橋を拠点に、全国各地で地域と関わるアート活動を展開している。


「向こう側」見てみよう



◎場を作り替えて楽しむ



 ミニFMは微弱電波を使って、誰でも無許可・無認可でラジオ放送をすることができる。電波が届く範囲はとても狭く、声が聞こえるくらいの距離をイメージすると分かりやすい。僕はさまざまなアートプロジェクトに参加し、ミニFMを使ったアート作品をいくつか作ってきた。

 ある団地の空き店舗に井戸を作り、住民の井戸端会議をそのままラジオ放送する『FMゆめ団地』、空き家のお風呂場に、住民やアーティストの声をラジオ的会話で記録する『黄金町FM』などである。「聴くためのラジオ番組ではなく、来て話すためのラジオ放送局」をコンセプトにし、その場を住民同士や参加アーティスト同士の他愛のない日常会話などをそのままラジオ放送し発信する場に作り替えてきた。

 ラジオ局にはいろいろな人が遊びに来る。リスナーからのおはがきをスタジオまで直接届けて家に戻って聴こうとする住民や、お笑い芸人を目指している住民、団地の家賃値上げを演説する住民、自作のフォークソングを流してほしいとCDを持って来る住民。ミニFMの放送範囲は狭いけれど、コミュニケーションツールとして、とても面白い場が作れる。

 コンテクストを変容させる、と言うとなんだか大げさに感じるかもしれないが、身近にもたくさんの例がある。椅子の多くは座るために作られているが、座らなくてもいい。高い所のものを取るのに椅子の上に立ったことは誰にでもあるだろう。使い方が一つとは決まったことではないのだ。身の回りの道具も少し使い方を変えれば全く違う働きをする、というのは場も同じことだ。

 場を面白く作り替えるためには、視点を切り替えていくことが大事だ。ドアは外と中を遮断するために閉じることができるし、外と中をつなぐために開くことができる。例えば、最近のブームで自転車が多く通る玄関があるとする。自由に誰でも使える自転車の空気入れを玄関先に置いてみる。利用者同士が会話をしやすいように椅子やお茶を用意しておいても面白い。自分の家の玄関が自転車愛好者たちの集う場になりうるだろう。

 今日の社会の中では、コミュニケーションを取らなくてもやり過ごせるように場が出来ているように感じる。いきなり他者に対してドアを全開にすることは難しい。コミュニティーや情報を守るためにドアを閉じながらも、ネットワークを拡張して視野を広げるためにドアを開く、そんな場作りが必要なのではないか。ドアは開くためにも閉じるためにも使える。モノの見方を変えるだけでなく、ドアのように、モノの見方を開いたり閉じたりして、当たり前の向こう側を見てみよう。






(上毛新聞 2011年12月16日掲載)