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前橋工科大助教  稲見 成能(玉村町南玉)



【略歴】横浜市出身。筑波大大学院博士課程単位取得退学。専門は環境デザイン。前橋けやき並木フェスタ2011実行委員長、日本建築学会関東支部群馬支所常任幹事。


上毛かるたに思う



◎郷土愛高めプライドへ



 私が大学生時代の話だ。教室に行くと数人の後輩たちが、何やら楽しげに歌を読み合っている。聞けば、それらの歌は彼らの故郷の郷土かるたの読み札であるとのこと。彼らは皆、群馬の出身だった。

 それから何年かして、私は縁あって前橋に勤めるが、そこでも同じような場面に幾度となく遭遇した。休み時間や飲み会の席で、何かの拍子に和気あいあいと歌読み合戦が始まるといった具合だ。

 さらにその後、小学生となった娘がある日、学校でかるた大会が催されるからと、かるた取りの練習を始めた。それが件(くだん)のかるたであったのは言うまでもない。私も何度か練習につき合わされるうちに読み札の句を覚えたり、「ここ行ったことあるな」とか「この人、群馬の人だったんだ」とか、ちょっとうれしかったり勉強になったり。ちなみに娘のお気に入りの札の取り方は、偉人のおじさんたちの肖像札をコレクションすることらしい。

 上毛かるたをつくろうと考えた人は天才に違いない。またその提案を受け入れ、かるたの制作や普及に努力した人々は高い見識を持っていたことだろう。このかるたがこれだけ普及し、群馬県民の郷土愛の醸成に一役買うようになったのは偶然とは思えない。そうなるように、このかるたはつくられていると感じるからだ。札の句と絵の質はともに高く、心に残るし、遊び方も単純なものから公式ルールによる競技かるたとしての本格的なものまであり、単なる玩具でない趣がある。

 こうしたことは、優れたコンセプトを基に、思慮深さと貫徹力ある強い意志をもって実行していくという、ものづくりに必要なことがなされなければ実現しなかったと思う。その「強い意志」の原動力は、かるたづくりを企てた者たちの郷土愛から発展した“プライド”だったはずだ。

 現在、群馬県内のさまざまな場所で、まちづくりに苦慮しているという話を耳にする。経済的な問題を除くと、その理由の上位は「まちづくりの担い手不足」「関係者の関心が薄く進展しない」というものだ。上毛かるたで郷土愛を育んできた群馬県民らしからぬ理由ではないか。だが実は、郷土愛だけではまちづくりをする動機付けにならないのである。まちづくりをする人には、ものづくりの場合と同様に、プライドが必須なのだ。この場合のプライドとは、過去を未来へつないでいくという、今に生きる者としての自分の役割に対する「誇り」のことである。上毛かるたをつくった人たちが持っていたプライドと同じものだ。

 試しにあなたの郷土愛をプライドにまで高めてみてはもらえないだろうか。

 「力あわせる二百万」のまちづくりを実現させてみようではないか。






(上毛新聞 2011年12月17日掲載)