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県民健康科学大講師  杉野 雅人(伊勢崎市連取町)



【略歴】愛知県出身。2000年博士(工学)取得。診療放射線技師、第一種放射線取扱主任者、医学物理士。環境放射線の研究を20年続け、10自治体の放射線測定を監修。


私と家族



◎「生き方」や「命」を学ぶ



 昭和45年6月15日、杉野家の長男として生まれた。実家は愛知県春日井市にある。4歳になっても哺乳瓶を手放さず、母親から一時たりとも離れない甘えん坊であったと聞く。母は63歳で逝ってしまったが、少々のことは気にしない優しい人であった。姉や私が何か困難に当たる度に、「大丈夫。山よりでかい獅子は出ない」とよく言って励ましてくれた。自分に解決できない試練はやってこない、という意味がある。今でも、困難に陥るとその言葉を思い出しては、自分を励ましている。

 4歳年上の姉がいる。小学校に入ったころから、お姉ちゃん子だった。周囲からは「とても仲が良い姉弟」と評判だったようだ。確かにけんかはしたが、すぐに仲直りしたし、学校以外では姉とよく遊び、何でも相談にのってもらった。三つ子の魂百までというが、大人になっても姉を頼りにしてきた。離れて暮らしている今でも時々、メールで近況報告やお互いに相談をする仲だ。

 父親は真面目で曲がったことが大嫌いな性格である。子どものころ、なぜか父親のことをすごく恐れていた。父が仕事から帰宅すると、姉も私も緊張していた。母は、そんな2人を見てよく聞いた。「怒ってもいないのに、なにが怖いの」と。確かに、何が怖かったのかいまだに分からない。父親の持つ威厳というものを恐れていたのだろうか。しかし、そんな父にも弱点はある。酔うと陽気になり、最後は座ったまま寝てしまうのだ。子どものころ、酔ってキッチンで居眠りしていた父の白髪頭を油性マジックで染めたことがある。翌朝、洗面所で頭と顔をがむしゃらに洗う父の姿をみた。「なんで、俺の枕と顔が真っ黒なんだ」と家族に聞いた。母は笑いながら昨夜の出来事を話した。父は「全然記憶にない。お酒は怖いな」と大笑い。厳格な父であったが、この時のいたずらは笑って許してくれた。私にとって父は厳しく、母は優しく、姉は気さくな相談相手。幼いころからそんなイメージだ。

 子どものころ、セミが大好きだった。毎年、セミの鳴く季節が待ち遠しかった。鳴き声が聞こえると、居ても立ってもいられず、採集に明け暮れた。採集したセミは宝物だった。しかし、夕方になると、かごの中の宝物をすべて逃がしてあげた。「セミは土の中で7年過ごし、地上ではたった1週間しか生きられない。やっと土の中から外の世界に出られたのに、かごに入れられっぱなしではかわいそうだろ? 自分だったらどうだ」と、父から問われたことがあるからだ。

 現在、5歳になったばかりの娘がいる。だんだん聞き分けが良くなってきた。来年、セミが鳴くころ、命の尊さ、大切さ、生きることの素晴らしさを娘に伝えたい。






(上毛新聞 2011年12月19日掲載)