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日中緑化交流基金首席研究員  長島 成和(前橋市下細井町)



【略歴】長野県生まれ。林野庁前橋営林局(現関東森林管理局)、日本森林技術協会を経て、興林に勤務。第2次奥利根地域学術調査隊員。林業技士。専門は森林土壌。


中国緑化報告(1)



◎裸地化で土砂が大河へ



 私が日中緑化交流基金から依頼を受けて緑化技術の巡回指導のため、訪中し始めたのは2007(平成19)年である。最初の事業地は、中国中央部の重慶市と長江中流域周辺であった。以来、中国各地を回り、5年が経過した。長江は、かつては揚子江と言われ、聖なる河かわとして親しまれており、総延長は約6千300キロメートル(世界3位)に及び、日本列島の約2倍になる大河である。

 河の流れはこの地点ではゆったりとして偉大さをも感じさせるが、水の色は濁りの激しいもので清き流れとはお世辞にも言えるものではない。「この河の色はいつもこうですか」と案内の人に問いかけた。すぐさま「いつもこの色だよ。水色の河の色なんて年に何度もお目にかかることはないよ」と返事があった。私は直感的に森林の存在が原因の一つではないかと思ったのである。

 中国にはもう一つ有名な河が存在する。それは黄河である。黄河も総延長約5千500キロメートルある。この二つの河は中国西部に位置するチベット高原に源をもち、ほぼ平行に蛇行しながら東に流れ国土を縦断して黄海、渤海に至っているが、水の色は両河とも変わりはないのである。

 さて、中国の森林の存在であるが、史料によれば、その昔、国土の大部分が森林に覆われ、森林国であったとされている。今日、統計によれば森林率はわずか20%に過ぎない。日本の森林率は67%を占めており、中国の森林率の低さには驚きを持つのである。

 森林が少ない理由は何だろう。京都大学農学部森林経理研究室(当時)の蘇雲山先生は、1991年の講演の中で、「一つに4千年以上の永い歴史、二つに農業のための不合理な開発や森林の乱伐、三つに歴史の中での戦争等が挙げられよう」と説いている。もう一つ挙げると、燃料革命の遅れではないかと思う。近年、中国の経済発展は目覚ましいものがある。日本は1950年代に燃料革命が起こったが、中国はまだ、農山村の燃料は依然として木材資源に頼り、年間1億立方メートルも消費している現状にあることも大きな要因であろう。このようにして中国の広大な森林の多くが荒涼とし、裸地化した大地は、時折もたらす集中豪雨によって土壌浸食が進み、重大な自然災害を頻発し、砂漠化を助長するなども加わり、国民の生活を脅かしているのである。

 長江や黄河の水の旅は長い。日を替えてはどこかで雨が降る。降るたびに大地は浸食され、土砂を流出させ河に流れ込む。これが大河の色をつくっているのである。

 今、中国は国土緑化に大きな力を注いでいる。これに世界各国が協力・支援している。折しも今年は国連が決議した「国際森林年」である。





(上毛新聞 2011年12月21日掲載)