視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
デザイン事務所代表  平野 勇パウロ(太田市内ケ島町)



【略歴】ブラジル・サンパウロ市生まれ。89年に来日。2010年から太田市と大泉町を中心に、ブラジル文化を紹介する日本人向けのフリーペーパーを発行している。


ブラジル人とサッカー



◎文化理解して真の交流



 2014年ブラジルサッカーワールドカップは、今ブラジル人が最も楽しみにしている一大イベントであろう。ブラジルにはサッカークラブが多く存在し、プロ・アマで活躍するサッカー選手も多いだけでなく、とにかくブラジル人は熱狂的なサッカーファンである。ブラジルは最近よくメディアで取り上げられるが、2016年にオリンピックも控えており、経済成長とともにさまざまな分野で全世界から注目を浴びるようになっていることは言うまでもない。そんなサッカーの熱狂的ファンであるブラジル人は明るく陽気な性格の人が多く、日本の生活に慣れているためか、私自身も戸惑うことがある。

 このごろブラジル人が集まる大泉町のフットサル場へよく通う。私自身もフットサルをやるようになったが、スポーツ好きという理由のほか、ブラジル人ショップ経営者が集まるため、情報交換の場としても大いに活用できる。接待ゴルフのブラジル人バージョンといえば連想しやすいだろう。普段聞けない経営者たちの本音が聞けたりと、大泉町でブラジル人相手に商売をする人にはうってつけの場所だ。そんなフットサルで少し困るのは、遊びのつもりですると、とんでもないブーイングを受けてしまうことがあることだ。サッカーへの熱い思いがあるためか、真剣に試合に挑み、大声を出しながらプレーしている様子は大きな緊張が走る。フットサル場のオーナーに聞くと、熱くなりすぎてけんかになることもあるという。以前、日本人が笑いながらフットサルをしていたら、その試合に参加していたブラジル人が怒ったそうだ。真剣にやっていないように見えたらしい。

 ブラジル人はサッカークラブの話題になるともっとやっかいだ。サンパウロFC、サントスFCやフルミネンセなどは日本でもよく聞く名クラブだが、ブラジル人男性は真剣にサッカークラブを応援しているため、下手に冗談を言って相手チームをけなすのは禁句だ。先日、ある友人の親友が亡くなった時のことだった。友人は亡くなった親友のことを振り返り「あいつの唯一の欠点は応援しているサッカークラブが違うことだったんだ…」と目を潤ませながら真剣に語っていたが、冗談ともとれる言葉にどう慰めてあげるべきか戸惑ってしまった。

 ブラジルの公用語ポルトガル語は、動詞活用や男性・女性名詞といった複雑な文法もあり、スラングを交えてジョークを交わす会話を理解するには、学校では学べない交流を積み重ねるしかない。本当のコミュニケーションは言葉を超えて、互いの国の文化・習慣の理解が求められる。ブラジル人とサッカークラブの話題で腹の底から笑えた時こそ、本当の日伯交流が生まれるのだろう。






(上毛新聞 2011年12月31日掲載)