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醤油販売の伝統デザイン工房社長  高橋 万太郎(前橋市文京町)



【略歴】前橋高―立命館大卒業後、キーエンス入社。退社後、2007年に伝統デザイン工房を設立した。「職人醤油」のブランドで全国の老舗の醤油を販売する。


おいしい醤油



◎造り手と微生物が協業



 300以上の醤油(しょうゆ)蔵を訪問していると、なんとなく感じることがあります。醤油の「造り手」と「味」の間にはとても密接な関係があるように思うのです。現在、前橋市で醤油を販売しています。全国各地の70銘柄がずらりと並ぶ店内では、通りすがりでご来店いただいた方の表情が変わります。「醤油ってこんなに種類があるの?」が最も多い第一声かもしれません。

 日本で生まれて醤油がきらいと宣言する方はとても少ないと思います。例えば、おいしそうなトロのお刺し身があったとして、醤油を付けずに食べる様子を想像してみてください。生魚が舌の上に直接のる感覚は、少々避けたいものではないでしょうか。うどんやそばのつゆはもちろん、牛丼やカツ丼を作るのにも醤油は欠かせません。お袋の味に代表される煮物だって醤油がなければ一大事です。

 このように考えていくと、醤油を口にしない一日を探す方が難しいかもしれません。ただ、これほど身近な存在である醤油ですが、その原料を即答できる方は意外と少ないものです。「醤油の原料といえば大豆ですよね。それと塩。あとは、何かな? あれ、それだけだっけ?」という反応がとても多く、もうひとつの主原料である小麦がなかなか出てこないのです。

 醤油づくりの主役は麹(こうじ)菌や乳酸菌、酵母菌といった微生物です。ただ、彼らだけがどんなに頑張ってもおいしい醤油にはならないもので、代表的な例が麹をつくる工程にあります。蒸した大豆と炒った小麦に種麹を混ぜて繁殖させるのですが、微生物が活動を始めると次第に熱を帯びてきます。そして、どんどん温度が上がっていくと、麹菌は自ら発する熱で死んでしまうのです。ここで温度を下げる手助けをする人の存在が欠かせないわけです。

 その後も塩水を加えて半年から1年、長いものだと3年もの間、微生物と造り手との二人三脚の日々が続きます。そして、ここからが面白いのですが、その接し方が造り手によってさまざまなのです。毎日見守らないといけないからと長期間の留守をしたことがないという職人。自然と微生物の力を信じ、極力手を加えないことを信条にしている職人。製造工程のいたるところに工夫を加えてオリジナルの工場にしている職人。最新技術と伝統技術の融合に挑戦している職人。

 全国にある約1500の醤油メーカーそれぞれに造り手のスタイルがあります。中でも「この職人さん魅力的だな」と感じる造り手の醤油には必ず熱烈なファンがいて、遠方から買い求めに来る方々でにぎわっています。醤油は微生物が造るものと造り手は表現しますが、微生物と造り手の協業があってこその醤油づくりだと思います。本当においしい醤油を食べたことがありますか?






(上毛新聞 2012年1月4日掲載)