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前橋朝倉小環境教育講師  鈴木 正知(前橋市朝倉町)



【略歴】東京都町田市出身。国内外の水族館や動物園で飼育員として勤務。現在、前橋朝倉小でビオトープを使った環境教育に携わる。前橋地域づくり連絡会委員長。

生き物との触れ合い



◎子どもに感性磨く場を



 いま子どもたちを取り巻く学習環境は競争の時代だ。小学生が学ぶ自然環境教育は競争とは無縁であってほしい。現に競争原理に疲れた子がビオトープで癒やされる姿を目にする。私は、小学生時代に出会うべき自然環境教育の原点はそこにあると思っている。一人一人がその時々に何かを感じ取る感性を尊重する時間であってほしい。

 自然環境教育とは、教育の名のもとに人が指導するのではない。自然環境そのものが子どもたちに未知なる物、感動に目を見張る感性を与えてくれる場を提供すること、そして、その場(学校ビオトープ)を維持管理することが重要である。まずはそこに身を置き、個々の生き物に対して興味をもったら、その一つ一つに丁寧に対応する。

 学校は町ごとに点在することから生物多様性の維持にも大いに役立つ。広い範囲を自然保護区(面でとらえる)とすることに引けをとらないほど大きな意味を持つ。学校ビオトープ同士が点と点で結ばれることで生き物の移動が容易になる。ことに季節で移動を必要とする生き物には最適。朝倉小学校のビオトープにもいろいろな渡り鳥が顔を見せる。青葉が芽吹くころにはアオバズク、ウソ、キビタキなど、秋を感じるころにはタゲリ、モズ、ウグイスなど、いずれもビオトープを移動に利用する鳥たちだ。

 植物は裸地から森林に向かう推移を数年かけて観察できる。これまで毎年夏になるとイネ科の草を刈る作業に汗を流していた。でも、ドングリを植えてそのままにしておくと日陰ができ、落ち葉が地表を覆うとイネ科の草が少なくなる。植物が環境に適応しようと植生が変わることも実感で理解できる。去年まで気づかなかった木が突然現れてびっくりする子どもたち。メダカは卵が空を飛んでやって来る? ビオトープの小さな池にカルガモの番(つがい)が夏になると遊びに来る。その足に卵の付いた水草が絡みついていたらどうなる? きっと新たな生きる場を得ることになる。そんなことも生き物を「見る」から「観る」に変えると見えてくる。

 こんな学校ビオトープでの体験が将来を左右することも。ビオトープ学習に関わった子どもたちと再会することがある。その後、高校で生物を選択したとか、大学で生化学の勉強をしているなど、うれしい知らせも聞く。いまの子どもたちも私が小学校に通っていたころと何ら変わらない。変わったのは子どもたちを取り巻く環境の方だ。一人一人の感性を磨くことができる生き物と触れ合うチャンス(学校ビオトープ)をすべての子どもたちに与えてほしい。





(上毛新聞 2012年1月11日掲載)