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INOJIN工芸倶楽部代表  井上 弘子(桐生市境野町)



【略歴】東京都大田区出身。筑波大芸術専門学群卒。同大学院を修了。在学中に陶芸を学び、県美術展や日本現代工芸美術展など入賞入選多数。工芸教室講師で工芸家。


ノコギリ屋根工場活用



◎連携して「場」の開放を



 平成24年が始まりました。INOJIN工芸倶楽部も、この春に2年目を迎えます。モノ作りの好きな人たちが気軽に交流できるような場をつくりたいと考え、昨年、自宅敷地内にある工場を工芸教室とギャラリー・カフェに改造しました。

 私の嫁ぎ先である「井甚織物」は、今は廃業して存在しないのですが、明治時代に設立された機屋でした。井上甚太郎が始めたので、姓と名の一部を取って「いのじん」と命名され、主に帯を織っていました。昭和40年代に建て替えられたノコギリ屋根工場は、機屋をやめてからも買継商の事務所や倉庫として利用されてきました。

 モノ作りには道具と場所が要ります。また、モノを作れば、それを発表したり販売する場が欲しくなります。それで、この工場の100坪という広さを生かし、教室とギャラリー・カフェに改造して使うことにしました。予算が少なかったこともありますが、改装はなるべく現状維持を方針として、昭和のレトロな感じを残しました。その結果、ギャラリー・カフェは昔の木造校舎のような雰囲気となりました。私はこの空間が好きで、ここにさまざまなシーンを演出してみたいと思い、いろいろな展示会を企画してみました。

 昨年のギャラリー企画展を振り返ってみます。5月は現代工芸展でお世話になっている作家の方々にお願いした『オブジェのような器展』、6月は絵本やテラコッタ像で独自の世界を表現する『南椌椌作品展』、7・8月は益子で活躍する陶芸作家6人による『日々の器展』、9月は写真家で装丁家の『山口昌弘作品展』、10月はJ―2陶芸教室と合同の『教室生徒作品展』、11月は金沢で主に色絵磁器を制作している作家6人の作品を並べた『九谷 日常茶飯展』、12月はジャンルの異なる工芸作家12人による『冬の贈り物展』を開催しました。

 今年は、1月に木版画展、2月に暮らしの器展、3月に地元桐生の帯や着尺を紹介するキモノ展を開催予定です。

 桐生にはノコギリ屋根工場がまだ200棟くらいあるそうです。大きな建物を維持管理することは個人の力では難しい点もありますが、歴史ある建造物を今の視点で活用することは街の活性化にもつながる可能性があります。桐生の複数のノコギリ屋根工場が連携して、それぞれが個性を持った場を開放したら、訪れる人たちはとても楽しい時間を過ごすことができそうですね。

 今年は企画展以外にも、貸しギャラリーとしての利用を検討しています。工芸や絵画作品発表だけでなく、コンサートや演劇といった催しもできそうです。いろいろな可能性を持った空間ですので、ここで個性を発揮してくださる方を募ります。





(上毛新聞 2012年1月17日掲載)