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樹木医、万葉園グリーンサービス経営  塩原 貴浩(前橋市田口町)



【略歴】前橋高、東農大院修了後、京都の「植藤造園」で修業。2003年、28歳で樹木医に。家業の造園業の傍ら、桜を中心に巨樹・古木の診断・治療に当たる。


「適地適栽」の大切さ



◎目的や環境考え植樹を



 農業に「適地適作」という言葉がある。その土地の気候や土壌に合った作物を作れという格言だが、これを樹木に当てはめれば「適地適栽」となる。南北に連なる日本列島に生育する樹木は2千を越えるが、樹種によりおのおの性質が異なり、求められる環境条件も異なる。例えば、同じマツの仲間でも海岸沿いには潮風に強いクロマツ、内陸部にはアカマツが生育している。防潮林としての機能を求めるならば、潮風に強いクロマツを植林しなければ役割を果たさない。われわれになじみの深いサクラの仲間も、成長の早いものや反対に大きくならないものなど多様な品種がある。街路樹や公園などでは枝も広がり樹高も大きくなるソメイヨシノで構わないが、病害虫の発生や根張りの強さ等、庭木としては多くの面で不向きであろう。

 人間が木を植えるという行為の裏にはさまざまな目的がある。単に観賞のためだけではなく樹木の持つ特徴を利用し、人間が快適に暮らすサポートを期待して木を植える。群馬県では冬の北風を防ぐシラカシの高垣がまず思い浮かぶ。機能的にも優れ、景観的にも美しい。人工物では代用し難い生活の知恵だ。また、風呂場等の目隠しにはツバキなどが最適だ。もし、こうした機能を期待して落葉樹を植えてしまったらどうなるだろうか? せっかくの風よけや目隠しが冬になると一枚残らず葉を落としてしまっては、まるで役に立たない。落葉樹は真夏の強い日差しや西日から建物を守る日よけに適しており、冬季には落葉して日が当たるようになる。樹木の性質や特徴を最大限に生かすにはその能力を引き出すための樹種選択が重要となる。

 これらを念頭に県庁に目を向けると、自然条件下で20メートル以上の大木になるシラカシが雨水も入らない屋根の下に植栽され、瀕ひん し死の状態を呈している。鉄の支柱だけが残り、枯れた株が何カ所も放置され、生き残った個体も強風にさらされ頭部を無残に剪せんてい定されている。何のためにこの場所へこの樹木を植えたのか…。デザインやコンセプトという言葉は聞こえはいいが、樹木という生き物を扱う上でその裏にある本質を表現できなければ全てまがい物となってしまう。

 樹木を植える時には、(1)何のためにその場所に植えるのか(2)日当たりや土壌などその木にとって環境条件は適当か(3)5年後、10年後の成長した大きさ、枝張りなど時間の経過を考えているか(4)複数植える場合は植栽間隔、高さや奥行き、重なりなど全体のバランスはどうか―以上のことを考えて樹種を選ぶことになる。これらを理解せずに植栽することは、樹木にとっても人にとっても不幸な結果となる。木を植えるときは、適地適栽を心がけ、今一度、木の気持ちになってその場所に植えていただきたい。






(上毛新聞 2012年1月21日掲載)