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視点 オピニオン21
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元・東北大大学院助教授  高橋 かず子(甘楽町小幡)



【略歴】東北大大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。東北大で機能性有機化合物の開発研究に取り組む。1997年から甘楽町のかんらふるさと大使。


卒業期の若者へ



◎進路は厳しい道選んで



 卒業期の中学生や高校生にとって、今の時期は進路決定、ひいては自分の人生や将来について考える機会が多いと思われます。このような人生の岐路に立った時、Aの道は比較的楽に進めそうで先も見えているけれど、Bの道は厳しそうで先も良く分からないという時に、私はあえてBの厳しい道を選ぶことを勧めます。なぜかと言いますと、この青年期は成長期であり、自分自身でも、自分にどんな可能性や才能があるのか、まだ良く分からない年齢です。実は自分が今考えているより10倍も100倍も大きく成長できる可能性があるのです。

 厳しい道でも努力してやってみようという意欲があれば、その厳しさと戦っているうちに、自力で乗り越える実力が身に付いてくるのです。厳しい道を選べば挫折や失敗に巡り合う機会も増えます。しかし、人の価値は失敗したか、しないかで決まるわけではありません。失敗してもその挫折から立ち上がれるかどうかで決まるのです。これは重要なことで、失敗や挫折をすることは実社会では日常茶飯事ですが、どんな失敗でも必ずその失敗には原因があるわけです。どこが足りなかったか、何が違っていたかを考えて、そこを改善すれば、その挫折から次の第一歩を探し出すことができます。従って、挫折は非常に良い経験であり、勉強の種なのです。

 私は東北大学大学院で多くの学生諸君に自然科学の研究の指導をしてきました。研究というのは未知の分野を解明することに挑む仕事ですが、その過程には挫折がつきものであり、失敗や挫折なしでは決して新発見はできません。挫折や試練を一つ一つ乗り越えるたびに問題を自主的に解決できる力が身に付き、一歩ずつ成長していくのです。

 現代はインターネットで検索すればほとんどのことは調べられる時代なので、レポートや作文をただ要領よくまとめただけで、現実の苦しみを体験していない学生は社会に出てから脱落してしまいます。これに対し、基礎知識をしっかり身に付け、苦しい学究活動を体験し、挫折から立ち上がる力を十分に養ってきた学生は実社会に出て、あまたの障害を乗り越え、立派に成長し、社会的貢献をし、人生の真の喜びを感じることができます。 人生で成功した人は皆、一度や二度、三度の挫折を味わっています。病気をしても、試験に落ちても、損をしたのではなく、そういう体験をしたことによって、その分だけ成長したと考えるべきです。たとえ青年期に回り道をすることがあっても、それが後半生で十分に生かされることが少なくなく、順調に過ごした人よりも、回り道をして、より多くの風景に接し、心が耕され、やがて自分の道を見つけた時、良い仕事をすることが多いようです。





(上毛新聞 2012年1月25日掲載)