,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
作曲・編曲家  福嶋 頼秀(東京都板橋区)



【略歴】前橋市出身。前橋高、慶応大卒。会社員を経て、作曲・編曲家として活動を開始。オーケストラや和楽器の作品を多数発表。演奏会の企画・司会も手掛ける。


ネット時代の伝統音楽



◎動画で若い世代へ発信



 お正月にテレビから琴・尺八の音色が聞こえてきて、「ああ、やっぱり和の雰囲気って素敵だな」と思った方も多くいたのではないでしょうか。その独特な響きや間を伴った音楽は、まさに和の雰囲気そのもの。こうした魅力を持った日本の伝統音楽なのですが、その将来は必ずしも明るいとは言えません。その理由の一つは、若い世代の愛好家があまり増えていない、と思えるからなのです。

 長唄三味線奏者として活躍している杵家七三(きねいえなみ)さんはこう言います。「歌舞伎のお芝居はもちろん素晴らしいのだけれど、テレビやインターネットを見て育った今の若い人には、テンポが遅く感じられるかもしれないですね。話がどんどん展開する若手の劇団の演劇や、音楽だけでなくトークや照明効果も素晴らしいSMAPのステージの方が、私にだって気軽に楽しめます」。杵家さんが若いファンを増やすべく活動する中で、今特に力を入れているのがインターネットでの音楽発信だそうです。

 みなさんは「ニコニコ動画」という、さまざまな映像が見られるサイトをご存じですか。その動画はユーザーが投稿したもので、一例をあげると、音楽家が自作曲を演奏している映像やパソコンで作ったアニメ等々。大勢の方が気軽に作品を発表しています。それらを若い世代を中心とした2千万人ほどの会員が視聴し、人気ランキングなども行われ、楽しまれています。

 ここでの作品発表のやり方の特徴の一つに、「二次創作」という方法があります。これはニコニコ動画で既に発表された作品を題材に、手を加えて改変版を発表する方法。人気のある動画は次々に二次創作がなされ、それが話題となりまた人気が出る、といった好循環が多数生まれています。

 杵家さんはこれに注目しました。人気のある『BadApple!!』という曲を題材に、その和楽器合奏版の『邦楽BadApple!!傷林果』という動画を企画したのです。私が編曲したのですが、電子音を生かした原曲のスピード感も取り入れつつ、三味線や琴が古典風に演奏したり、笛や太鼓が派手に活躍する部分も作りました。和服を着ての演奏風景は、ニコニコ動画の投稿でおなじみの方々の協力で撮影され、その模様はインターネットで生放送されました。

 昨年8月に動画が発表されると、その視聴回数は2日間で20万回にも達し、今では総数80万回以上。「和楽器ってカッコイイ」「日本人で良かった」といった感想も多数寄せられ、これを機に和楽器を習い始めた方やこの曲の演奏に取り組んだ若者も出てきたのです。伝統音楽の世界では古典の作品を魅力的に演奏することはもちろん大切ですが、若い世代にアピールする新しい活動も盛んに行うべきではないでしょうか。






(上毛新聞 2012年1月26日掲載)