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視点 オピニオン21
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東京芸術大非常勤講師  赤池 孝彦(桐生市東)



【略歴】静岡県出身。東京芸大大学院修了後、文化庁在外研修員など歴任。改装したのこぎり屋根工場を拠点にアートプロジェクト・桐生再演を企画運営する。美術家。


プロジェクト桐生再演



◎アートの“枠”を超える



 桐生で16年間続けていたアートのプロジェクト「桐生再演」が昨年止まった。いつものようにメンバーが集まりミーティングをしているうちに、メンバーがみな大学教員になっており、所属する大学や該当する地域でのプロジェクトで運営の中枢を担っていることに気づいた。内容について考えてみると、一定の役割を果たしたと言ってよい。

 私たちのプロジェクトは制作側といえども運営側にもまわり、交渉も契約も自分たちで行う。学生のうちから文書類の書き方、作品以外の仮設構築物の制作方法、工具類の扱い方を覚え、PCソフトを駆使して広報や冊子類、ホームページも制作してしまう。代表ともなれば報告書作成や会計管理も付加されるが、責任は参加者全員が共有する。そういうわけで、プロジェクトに関われば自分たちの手で企画や運営はできるようになる。アート系だからといっても人間関係が苦手と言ってはいられなくなる。5年前と比べ私自身も社交的になったと思う。

 現在、地方だけでなく都内近郊であっても、また美術系の大学だけでなく総合大学でさえも産学官民が連動していくつものプロジェクトが同時進行している。私たちはそれらに関わり、その中でいくつもの役割を担うようになっている。

 昨年を振り返ると、東日本大震災の際に余震が続き交通手段さえ確保されない状態の中、現地に多くの学生が赴き、さまざまな物資を要請するメールが毎日のように届いた。大変生々しい現場の雰囲気がダイレクトに伝わる。社会的な問題をリアルに大学で扱う時代になったともいえる。

 担当している大学院生30人のほぼ全員が、大学以外の何らかのプロジェクトに参加して国内外の各地で活動しており、その様子が学内専用サイトや他の媒体で発表される。それを前に、表現とは何かということを、教員も学生も同じ地平に立って原点から考えさせられる。

 私たちの桐生のプロジェクトは、一定の期間をかけてリノベーション(=改築)まで自分たちで行った。それが桐生森芳工場である。取り壊し予定だった森芳織物工場そのものを作品としたことをきっかけに、所有者の理解を得て実現されたプロジェクトである。詳細はINAXのリノベーションフォーラムで桐生森芳工場のレポートを読んでいただきたい(http‥//forum.inax.co.jp/renovation/forum/repo011-kiryu/report011.html)。この中で紹介されているように現在もなお私たちの仲間が継続しているプロジェクトもある。

 このようにアートの一般的なイメージを超えてしまってアートの表現には見えなくなってしまったプロジェクトが、桐生再演の本当の姿なのかもしれない。







(上毛新聞 2012年2月3日掲載)