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視点 オピニオン21
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現代芸術家  中島 佑太(前橋市関根町)



【略歴】前橋市出身。中央高、東京芸術大美術学部卒。東京を拠点に活動後、2010年冬から前橋を拠点に、全国各地で地域と関わるアート活動を展開している。


塩釜とアート交流



◎地域つなぎ創造的活動



 宮城県塩釜市は、塩釜神社を中心に栄える港町で、仙台市から車で25分ほどの距離にある街だ。昨夏、前橋市内で塩釜と前橋の交流イベントを、塩釜でアートスペース・ビルドフルーガスを営む高田彩さんと連携しながら企画した。『でんでん虫と羅針盤』という絵本のようなタイトルをつけたそのイベントは、前橋文化服装専門学校アートスペースをメーン会場に、ビルドフルーガスの所蔵作品の紹介やワークショップ、高田さんらをお招きしたトークイベントなどで構成し、好評のうちに終了した。

 今僕は塩釜市でこの記事を書いている。高田さんの企画のもと、仮設住宅でラジオを使ったワークショップや仮設店舗でのインタビューなどを行った。記録した音源は「3がつ11にちをわすれないためにセンター(せんだいメディアテーク)」に保管される予定だ。2月にも同じ仮設住宅で、歌声喫茶やテーマソングを作るワークショップも開催する計画である。

 このように、高田さんと連携し、いくつかの企画を作り始めている。その発端は、津波で甚大な被害を受けた塩釜への被災地支援活動だったが、若手芸術家の僕には長期的な支援活動をすることは経済的に難しかった。そこで、応急的な被災地支援から、長期的でクリエーティブな地域間交流へのシフトチェンジを提案した。

 塩釜では地元の方々に向けて活動しながら、同時に前橋との交流企画の話もしている。前橋で素材を探し、塩釜の職人が形にして商品化したり、塩釜にアーティストインレジデンスもできるユースホステルを前橋の芸術家とともに作ったりと、まだまだはっきり言えないぼんやりとしたアイデアがたくさん出てきている。

 ところで、日本のトンネル掘削技術は世界トップクラスだと聞いたことがある。トンネルは、あっちへこっちへと行き来が可能になる便利な穴だ。トンネルによって人や物が移動し、情報や文化が交換され編集される。人は古来から移動の中で物事を考え、生み出してきたのではないか。

 自分の住む地域からの道中、行き先の地域のことを考える。どんな人に出会い、どんな話ができるか想像する。そのイメージを通して自分の地域のことを考える。僕は前橋を拠点に各地へ出向き、活動する出稼ぎ労働型現代芸術家と言える。そんな感じ。作品のアイデアも、そのようなイメージの中にある移動中に運転をしながら思いつくことが多い。

 今後は、前橋と塩釜の間でキャッチボールをするように、さまざまな形で関わり、クリエーティブな活動をしていきたい。思いも寄らぬボールでもしっかりキャッチし、投げ返す。面白いことはそうして生まれていく。





(上毛新聞 2012年2月9日掲載)