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日中緑化交流基金首席研究員  長島 成和(前橋市下細井町)



【略歴】長野県生まれ。林野庁前橋営林局(現関東森林管理局)、日本森林技術協会を経て、興林に勤務。第2次奥利根地域学術調査隊員。林業技士。専門は森林土壌。


中国緑化報告(2)



◎耕すのをやめ林に還す



 中国の人口は約13億人で世界第1位である。食糧確保は最大の懸案事項となる。1960年代から歴代の指導者は農業政策に力を注いできた。これにより近年、食糧確保の問題は解消されたと言われている。

 農業政策の一つの方策として森林の農地転用が図られ、このため森林は減少の道をたどったのである。

 私は、中国全土を歩いたわけではないので、その全容を述べることはできないが、陸路を走行中、車中からみられるものは丘陵状の山々にほぼ等高線状に作られた階段状の農地ばかりなのである。作物は、トウモロコシを主とし、他に水稲、麦、スイカ、葉物野菜等と多様である。日本でもこうした階段状の農地は棚田として、美しい光景を映し出すが、中国の階段状の農地はその比ではない。こうした農地はさらに奥地の山岳地にまでみられるのである。

 一方で、開墾された農地は人力に頼る営農の困難さ、地力の衰え等も加わり、無残にも放棄された箇所が多くみられることは見逃せない。放棄農地は、茶色の山肌を見せ荒地化の様相の箇所も少なくない。これらが災害をもたらす原因となっているのであろう。

 中国は今、「退耕還林」と称する政策をとっている。退耕還林とは、われわれには聞き慣れない用語であるが、訳すれば「耕すのをやめて林に還(かえ)す」という意味である。こうした方針転換は、多くの自然災害を経験し「国土の保全なくして国の繁栄なし」とする教訓からにほかならない。各地に配置されている林業庁の指揮のもとに、放棄され荒れ果てた農地を森林に還すべく政策転換を図り、さらに、中国国民の緑の重要性への意識の高揚も加わり、大きな改革がなされようとしている。

 こうした改革が比較的スムーズに進行するのは中国ならではと思えることがある。それは、土地の所有が個人のものでなくほとんどが国の所有となっており、住民は、借地や使用権、管理の権利を任されていることがあげられよう。

 改革は他にもある「林権改革」と言われるもので、造成した森林を住民個人の財産として権利を与えることである。また、「義務植林」というものもある。すなわち国民一人一人に植樹の義務を課すことである。

 さて、こうした「退耕還林」等の政策を行う上で問題はないわけではない。植林(造林)技術である。日本では特に1960年代から力を注いだ「林力増強」政策を通して植林をはじめ森林造成技術を習得してきた。しかしながら中国では、これとは裏腹に農地への転換を推し進めてきていたのである。したがって森林造成にかかる技術の開発等はこれからといった状況にあると言えよう。





(上毛新聞 2012年2月10日掲載)