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視点 オピニオン21
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前橋工科大助教  稲見 成能(玉村町南玉)



【略歴】横浜市出身。筑波大大学院博士課程単位取得退学。専門は環境デザイン。前橋けやき並木フェスタ2011実行委員長、日本建築学会関東支部群馬支所常任幹事。


物語のあるまちづくり



◎「脚本」と「演出」が重要



 われら人類というものは、“物語”を基本的に好む生き物である。祭事の演舞や舞台劇、文学作品、紙芝居、漫画、映画、テレビドラマ、おばあちゃんの昔話など、フィクション、ノンフィクションを問わず、それは時代や国を超え、表現形式が変わっても不変である。昨年暮れに、あるテレビドラマが一般劇部門の歴代3位となる高視聴率を獲得したというニュースを目にした。テレビドラマが低迷期に入ったと聞いて久しかったから少しばかり驚いたが、その間も視聴者は実は面白いドラマを待望し続けていたのだと知り、つくづく冒頭の感を強めるに至ったのである。

 人にとって物語の役割は極めて重要である。それは時にわれわれの歴史や文化を支え、また娯楽の一つとなって日常を支えている。つまり物語は公私にわたり、われわれの心を支えるものであるのだ。人が物語を好むのは、心を支え、豊かにしてくれる何かを、われわれ自身が常に渇望しているからなのだろう。

 ところで物語は、テレビや映画、文庫本などの中にのみ存在するのではない。あなたの家の玄関ドアの外に広がる世界“まち”も物語の表現形式の一つと見なすことができる。全てのまちは固有の風土・歴史・文化を持っている。それらがそのまちの物語に相当する。そういう意味では、既存のまちの全てが「原作付き」であり、つまりまちづくりは、あくまでも原作を尊重しながら、現代らしさも加味して脚本を再構成し、最先端の手法や技術によって表現された映画作品をつくる場合に似ている。

 原作をないがしろにすれば、たちまち駄作の烙らく印いんを押されるに等しいまちが出来上がるし、そもそも「名作」をつくるためには、全制作スタッフが意思統一のもとに各自の能力を発揮する必要がある。各スタッフを例えるなら、「プロデューサー=行政」「脚本=都市計画担当」「演出=都市デザイン担当」「俳優=建築デザイン担当及びオープンスペースデザイン担当」であり、市民はスポンサー兼観客である。

 しかし、わが国のまちづくりは、ごく一部の先進都市を除き、「脚本」と「演出」という最も重要なスタッフを十分に働かせず、「俳優」の演技力に任せたアドリブでの場当たり的なストーリー展開に興じてきたのである。気がつけばそこかしこに、何の脈絡もないショート・ストーリーを寄せ集めただけのオムニバス映画のようなまちが出来上がってしまった。魅力あるまちづくりには、「脚本・演出」を専任担当する都市デザインセンターのような官民協働組織の構築と、「全制作スタッフ」の意思統一が必要である。われわれの心を支え、豊かにしてくれる物語のようなまちに住むために、渇望するほかにできることを考えたいものである。







(上毛新聞 2012年2月18日掲載)