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視点 オピニオン21
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デザイン事務所代表  平野 勇パウロ(太田市内ケ島町)



【略歴】ブラジル・サンパウロ市生まれ。89年に来日。2010年から太田市と大泉町を中心に、ブラジル文化を紹介する日本人向けのフリーペーパーを発行している。


食文化の違い



◎互いの価値観を再認識



 ブラジルと日本ではさまざまな食に関する習慣の違いがあり、長年日本に在住していても、時には戸惑ってしまうことがある。

 文化の違いを痛感させられる出来事があった。年末に親しいブラジル人の友人から電話があった時のことだった。友人はとても興奮した様子で話をしていたので心配して理由を聞いたところ、家に生き物が届いて困っているということだった。状況がよくつかめなかったので家へ行ってみたところ、その生き物の正体は生きの良い立派な伊勢エビだった。友人は生きた伊勢エビがかわいそうになったのか、水に入れていたが、とても食べたがっている様子ではなかった。

 実はブラジルでは生きたままの魚介類を贈ることはもちろん、刺し身の生き作りなども行わない。生きたままでは、新鮮な食材というより動物虐待を思わせるマイナスイメージの方が強い。伊勢エビが高価な贈り物であり、新鮮度をアピールするために生きたまま届くことを友人に説明しなかったら、せっかくの贈り物も嫌がらせに感じられてしまうかもしれない。 新鮮な食材といえば、自宅の畑の野菜を近所で分け合う習慣もブラジルではあまりなじみがない。食材をもらうことは決して嫌ではないが、未完成の料理をあげることで、手抜きの贈り物のイメージがあるため、少し違和感がある。

 ブラジルではあいまいな食べ物のマナーがある。例えば誰かと一緒にいる時にパンやお菓子などを食べる場合、必ず一緒にいる人に勧めてあげないといけない。日本でも見られる行動だが、ブラジルではどんなに小さくて分けにくい食べ物でも、とにかく一緒に食べるかどうか聞くのがマナーで、その量によっては断るのもマナーなのである。この習慣の違いについて、職場で日本人と仲良くなったあるブラジル人が教えてくれたエピソードがある。そのブラジル人はリンゴが大好きで、毎日リンゴをお弁当に入れていたが、周りの人に勧めると必ずリンゴを食べるのでお弁当に入れるのをやめたという。後にそのブラジル人は「日本人はどうして他人のお弁当を食べたがるのだろう」と言っていたが、勧められた方は食べてあげるのがマナーと思っていたに違いない。

 もちろん、自分の作った料理を食べてもらいたいために職場へ持っていくこともある。食べても良いかどうかは日々の生活の中で、その人の思いやりの気持ちを理解し、自然に判断できるようになる。

 食べることは食べ物を口にいれる単純な行動だが、コミュニケーションの機会をもたらせてくれるだけでなく、お互いの国の価値観を再認識できる重要な交流のツールだ。食文化の違いを理解することで、言葉を超えた国際交流を深めることができるだろう。





(上毛新聞 2012年2月25日掲載)