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視点 オピニオン21
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群馬パース大学長  小林 功(前橋市三俣町)



【略歴】渋川高、群馬大医学部卒。同大学院修了。医学部附属病院長など歴任、2005年から現職。群馬大名誉教授。歌誌「地表」同人。10年度県文学賞(短歌部門)受賞。


医療崩壊をめぐって



◎地域に即し医師養成を



 私の手元に藤田紘一郎東京医科歯科大学名誉教授の『医療大崩壊』(講談社文庫)の一冊がある。

 「医療崩壊」という言葉は時々新聞や雑誌にもとり上げられるが、この言葉は、救急患者の受け入れができず、たらい回しにされ不幸な結果を招いた場合などに使われる。日本は世界に冠たる国民皆保険制度があるはずだ。病院の数や病床数も多いといわれてきた。それなのに、なぜこうしたことが起きるのか。

 一方、わが国では少子高齢社会の到来が急速に進んでいる。2011年の時点で65歳以上の高齢者が23%となった。当然、医療費も膨らむ。

 かつて厚生労働省は「医師不足はない。医師の偏在が問題」としてきたが、医療現場の現状に鑑み、国は大学医学部定員を定めた1997年の閣議決定を撤回し、定員増の方針を打ち出した。

 わが国の医療は「待機的医療」はある程度充実しているが、「救急医療」が問題である、ともいわれる。

 医療環境悪化の一因に2004年、厚労省による「新研修医制度」の導入があり、それが契機となり顕在化したと私は思うのである。

 新研修医制度は、医学部卒業後に医師国家試験に合格した医師が大学や指定研修病院で2年間の臨床研修を義務化した。この2年間はかつてのインターン制度と異なり、ある程度の給与が支給され、内科、小児科、産婦人科や救急部などコア・カリキュラムに従い、各診療科を順番に経験する。 問題はマッチングという制度で、研修指定病院を選択できる。その結果、どういう状態になったか。大学、特に地方大学で研修する者が激減してしまったのである。県外の偏差値の高い高校出身者は都市部の大学や大病院へと消えてゆく。県内出身者も例外ではない。2年の初期研修終了後に県内に戻り、後期研修を受け専門医になったり、研究者になる人材が減少することになり、大学から他の病院に派遣する余裕もなくなった。ある病院では医師不足のため病床数を縮小したり、診療科を閉鎖せざるを得なくなった。

 国はかつて医師数の増加を抑制しようとしたが、今度は増加の方針に転じ、「地域定着型」支援体制の構想も動き出してはいる。

 06年、厚労省と文部科学省などは「新医師確保総合対策」をまとめた。09年、文科省は「これまで地域医療は都道府県が担当してきたが、今後は大学がその役割を担っていくようにする」という。「ゆとり教育」の反省と同じではないかとも思ってしまう。

 そこで提言を述べたい。医師を増やすだけでは「医療崩壊」の解消にならない。地域のニーズに応えられる医師の養成が急務である。魅力ある大学づくり、拠点病院の構築を切望する。






(上毛新聞 2012年2月27日掲載)