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静岡大人文学部教授  布川 日佐史(静岡県沼津市)



【略歴】ブレーメン大客員教授、厚労省「生活保護の在り方に関する専門委員会」委員などを歴任。雑誌『貧困研究』(明石書店)編集長。館林市出身。


生活困窮者の就労支援



◎強制でなく「伴走型」で



 生活保護や住宅手当を受給している生活困窮者への自立支援・就労支援が全国各地で取り組まれています。福祉事務所に就労支援員が配置され、ハローワークと連携して支援にあたっています。釧路市がモデルとなり、すぐに就労が難しい人にボランティアなど社会参加の場を提供するという実践も広がってきました。埼玉県では生活保護受給者が職業訓練を受けるのを支援し、成果をあげています。

 静岡でも昨年10月から生活保護と住宅手当を受給している人を対象に、県が新たな就労支援事業を始めました。委託を受けたNPOの15人の就労支援員が、4カ月で700人を支援してきました。170人が何らかの仕事につきました。支援員がハローワークで一緒に求人を検索したり、履歴書の書き方や面接での受け答えをアドバイスしたり、就職先について話し合うことで就職できたケースがたくさん出ています。一緒に考えてくれる人がいて、アドバイスと支えがあることが大切なのです。

 また、支援員が時間をかけ、じっくり関わりを持つことによって、変化が出てきたケースもたくさんあります。訪ねてもドアを開けてくれなかった中年男性が何度目かに話をしてくれ、今は引っ越しのアルバイトに一緒に行くようになったとか、50社の採用に落ち続け、ハローワークに行けなくなっていた男性がその思いを語り、自分で選んだ職種に就職したとか、これまで働く意欲がないと思われていたあの人が、というドラマが生まれています。

 正社員になった人もいますが、多くは非正社員や短期のスポット就労というのが実際です。もっと条件の良い仕事にランクアップできるか、それをどう支援するかが次の課題です。

 支援は仕事に関することだけに限りません。通院や転居にかかる費用、子どもの保育や学校のことなど、相談を受けた支援員は、福祉事務所につないで解決をはかっています。どうしていいかわからず、困っていたことに見通しがつくと、力が湧きます。

 一方で、現在、就労可能な生活保護受給者が求職者支援制度に基づく職業訓練を受けないなら、生活保護の支給を打ち切るという提案が具体化されかけています。昨年末に国と地方自治体がまとめた提案です。生活保護受給者に職業訓練を強制することになります。

 本人が望む適切な職業訓練の場があるのかがまず問題です。何より、本人の思いや意思を尊重するのではなく、脅して無理に強制することは、自立支援という考えには逆行します。上で紹介してきた自立支援の取り組みがゆがんでしまいます。支援員との信頼関係が崩れます。自己決定あっての自立なのです。強制ではない「伴走型」の支援が広がることを望みます。






(上毛新聞 2012年3月1日掲載)