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視点 オピニオン21
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県がん患者団体連絡協議会企画委員  篠原 敦子(前橋市箱田町)



【略歴】前橋市生まれ。『光満つる葉月、切除』が第6回開高健ノンフィクション賞最終候補に。『その夏、乳房を切る めぐり逢った死生観』と改題し創栄出版より発刊。


家族性乳がん



◎真の情報収集力養って



 大気汚染が深刻になり、食生活が偏りがちになったこの50年で、乳がん発症率は数倍に上っている。

 複数の親族が乳がんを経験する「家族性乳がん」では左右両側を侵されるケースが多い。温存手術をしても乳房内に再発することもしばしばだ。また子供は親よりも10歳から20歳若く罹りかん患する率が高くなっている。 群馬県内では太田市の県立がんセンターで、乳がんの遺伝子カウンセリングを受け付けている。是が非でも発症を抑えるとしたら、遺伝子診断や、予防のための治療をおいては考えられない。しかしながら、卵巣切除、ホルモン療法などの予防的な処置は重い副作用を伴い、しかも保険の適用は認められていない。

 家族性乳がんのリスクを負った女性は、妊娠、出産をごく若いうちに配分するのも、人生設計の一案だ。乳がんにかかった前と後で、それらの大仕事はハードルの高さが違ってくるからだ。

 遺伝子に変異があるからといって、必ずしも罹患するとは限らない。だが万一に備えるとしたら、がんとの闘いは情報収集にかかっている。

 情報の不足と氾濫とは、実は表裏一体なのだ。インターネットは瞬時にして知識を取り込めるが、安全とは言い切れない美容外科、栄養食品の宣伝があまりに多い。個人のブログは閲覧者とのつながりを大切にしていて心強いが、乳がんの病理、治療法は十人十色だ。

 患者のための医学本に挙げられている標準的な薬品名は、5、6年たてば変わっているかもしれない。そして医師の存在。名医の誉れ高くとも、人間の相性は複雑である。セカンドオピニオンは普及してきたが、地域によっては、どの病院も同じ大学病院で研鑚さんを積んだ医師に占められている。

 真の情報収集の力は、ここに列記したものすべてを網羅した上で、自分自身に投資することで養われるのではないだろうか。最新の治療法をテーマにしたシンポジウムに参加したり、さまざまな患者会に頻繁に足を向けるうち、取捨選択の幅、感性は研ぎ澄まされてゆくものだ。

 病を告知された瞬間は、どんなに気丈な人でも頭の中は真っ白になる。肝心なのはその次の段階だ。どん底から這はい上がろうとする時、怪しげなケモノ道に進んでしまったら取り返しのつかないことになる。

 乳がんにかかっても適切に治療して、その後、結婚し子供に恵まれた女性は少なくないことを、知っておいてほしい。

 また、今では幾通りもの乳房再建術があり、再建サロンを覗くたび、同じ試練を乗り越えた者同士の、独特の活気に圧倒される。

 家族性乳がんという血筋の中に仕組まれた厳しい宿命を生き抜く上で、強力な味方が多いことも、現代のメリットではなかろうか。






(上毛新聞 2012年3月5日掲載)