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視点 オピニオン21
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INOJIN工芸倶楽部代表  井上 弘子(桐生市境野町)



【略歴】東京都大田区出身。筑波大芸術専門学群卒。同大学院を修了。在学中に陶芸を学び、県美術展や日本現代工芸美術展など入賞入選多数。工芸教室講師で工芸家。


日常にキモノを



◎着て支えよう伝統産業



 キモノは矩形(くけい)のたった一つの形しかないのに、老若男女が着こなすことのできる合理的な服だと思います。背の高さや身体の幅などが多少違っていても、許容できるところが優れています。人に合わせてくれる服と言えます。それに対して、洋服は太ったり痩せたりすると合わなくなります。人が服に合わせなくてはなりません。

 日本の歴史の中で長期にわたって愛されてきたキモノですが、現代の生活様式の変化から不便なものになりつつあります。畳の部屋も数少なくなり畳むのも一苦労ですし、車の乗降や運転にも不向きです。日本女性の多くがキモノ姿に憧れると言っているのに、実際には着ていないのです。その理由としては、自分で着られないことや始末が面倒、高価なことなどが挙げられます。それに加え、「今日は何があるの」と周囲から詮索されることも理由の一つになっているようです。特別な理由なしにキモノ姿でいることが自然でなくなってきているから、キモノを着ると目立ってしまうのです。気の弱い人は、それだけでおっくうになってしまうかもしれません。

 桐生はキモノ姿を支える産業で栄えてきました。時代とともにキモノ産業は縮小してきていますが、努力を重ねて残そうと奮闘している人たちもいます。その存在が頼もしく思えるのですが、ただ思うだけでなく、努力して支えなくては消滅してしまうかもしれません。震災以来、多くの業種が低迷しています。生活に最低限必要というものではない呉服業界の落ち込みはなおさらです。このままでは世界に誇れる日本の伝統産業が消えてしまうのではと私は危惧しています。

 洋服は若い体形をベストに考えているのか、年取ると似合うものが少なくなります。その点、キモノはその年相応の美しさを引き出してくれると思います。あなたもキモノを着てみませんか。少しの努力で誰でも着られるようになります。帯結びが苦手なら、二部式の帯も便利です。洗えるキモノだってあります。入門は骨こっ董とう市のキモノでもいいですね。キモノを日常着る服の選択肢の一つととらえてみませんか。それが日本の伝統産業を支えていくことにつながりますし、また違うあなたの一面を発見できるかもしれません。母や祖母から譲られたキモノを着る喜びもあり、キモノによって生活が豊かに広がっていくような気がします。

 桐生で新しいキモノを模索する機屋さんが集まって、『きりはた』というグループをつくりました。その展示会を3月11日から18日まで当倶楽部で行います。個性的な帯留めの制作も工芸作家さんに依頼しました。桜便りももうすぐ聞かれ始めるこの季節、春の日差しに誘われて、遊びがてらお立ち寄りいただけたらうれしいです。






(上毛新聞 2012年3月8日掲載)