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帝国データバンク太田支店長  西村 泰典(太田市飯田町)



【略歴】宮城県塩釜市生まれ、東京都大田区育ち。神奈川大卒業後、帝国データバンク入社。業務部や人事部、調査部、広島支店情報部長などを経て2011年3月から現職。


オール群馬の地酒



◎徳利を使いPRしては



 東日本大震災の直後、自粛ムードの高まりから日本酒の販売は落ち込み、その後も、復興支援の一環で東北の地酒はもてはやされているものの、県内の蔵元の多くは苦戦を強いられているらしい。

 そんな中、3年越しの新酒開発のプロジェクトがこの春、実を結ぼうとしている。

 みなさんは、4月に県内の15の蔵元から「オール群馬の地酒」が一斉に発売されることをご存じだろうか。「オール群馬」とは、県が開発した新品種の酒米「舞風」と県産の酵母を使い、群馬の名水で仕込んだ酒のことである。目指すのは「地域に愛される値頃感のある地酒」を開発することだそうだ。

 現在、群馬で主流の酒米は「若水」と呼ばれ、愛知県で開発され群馬で育った米であることから、よりご当地色を強めるため、新たに群馬生まれで群馬育ちの「舞風」を開発したと聞く。ちなみに、酒米といえば、山田錦が有名だが、この米は兵庫県で開発され、作るのが難しいとされる一方、その米で作る酒は品評会でも毎年高い評価を受け続けており、酒米の中では横綱格と言える存在だ。もっともその分、米の値段も高く、出来上がったお酒も高い物となる。

 一方、「舞風」は山田錦に味は劣るものの病気への耐性が高く、作りやすく安定した収量が見込める米であることから、酒造組合いわく、安くてうまい酒、流行のB級グルメにあやかって、究極のB級酒を狙っているそうだ。

 仕事柄この話を聞いて、ゆくゆくはこの取り組み、生産量が少ないことを逆手にとって、県内の蔵元を全国にPRするイベントにできないだろうかなどとつい考えてしまう。

 例えば、県外の人でも楽しんで買い物に来てもらえるように、古き良き時代のアイテムである徳とっくり利を復活させてみてはどうだろうか。「舞風徳利」(仮称)を持って、日本全国からこのお酒を買いに来てもらうのだ。徳利をどうするか、方法はいくつかあるが、携帯やスマートフォンで楽しめる位置登録ゲームとタイアップし、群馬県を訪れた人に特典付き(割引など)チケット「舞風徳利」をダウンロードできるようにして、バーチャルな世界で一昔前の買い物を追体験してもらうとか。

 小職の勝手提案はさておき、この新しい酒造りをきっかけとして、若い世代の交流が進み、さまざまな意見が取り交わされたと聞く。「舞風」を使ったこの取り組みが成功し、県内の蔵元が元気を取り戻すきっかけとなることを切に願うとともに、作り手の連携と技術交流がどんな酒を造り出すのか、その時を楽しみに待ちたい。







(上毛新聞 2012年3月14日掲載)