,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
和紙ちぎり絵作家  森住 ゆき(埼玉県熊谷市)



【略歴】桐生市新里町出身。1984年偕成社「絵本とおはなし新人賞」、85年群馬県文学賞児童文学部門受賞。著書に『アメイジング・グレイス』『ぶどうの気持ち』。


福祉作業所のお菓子



◎味と質で利益生み出す



 日頃は締め切りがないと何もしないタイプですが、頼まれもしない絵を制作させていただいたことが一度あります。そうせずにはいられなかったからです。

 私は前橋在住時代にキリスト教信仰を持ち、埼玉県熊谷市に住む今は家族で隣市の教会に通っています。この教会はキリスト者の地域貢献を模索する中で、NPO「行田のぞみ園」という福祉施設を生み出しました。主なスタッフを信徒が務め、知的障害者の方々と一緒にクッキーやパウンドケーキを製造しています。

 私も一時期少しお手伝いをしていたのですが、驚いたのは園の人々が懸命に作り出すお菓子の、福祉作業所の概念を打ち破るような質の高さでした。「同情で買ってもらうのではなく、味と質で選ばれる製品で利益を出し、通所者の給与にしっかりと還元する」が園の理念なのです。

 老若男女十数人が通う園は、法的には障害者就労支援施設です。しかし入所者の皆さんは「園は社会人として責任をもって働く場所」と受け止めています。必ずしもそれが得意ではない方々が、忍耐強く努力を続け「あなた方の作るお菓子は本当においしい」と多くの市民に言われるまでになる。心から声援を送りたくなり、園のお菓子をモチーフにした絵を制作し、販促パンフレットやカードに使っていただきました。それは絵の制作に関わる者として、とても幸せなことでした。

 私財の大半を投じて福祉財団を設立した、ヤマト運輸元会長の小倉昌男氏(故人)は著書『福祉を変える経営~障害者の月給一万円からの脱出』の中で、「福祉作業所の名に甘え、市場経済の感覚から遊離したモノ作りをしていては、障害者に然しかるべき報酬を払うことはできない」と訴え、そのシステム構築こそが「健常者の責務ではないか」と書いておられます。 そのことは園の販売の現場でひしひしと感じました。よい品でなければ、結局「続かない」のです。と同時に、その品質を認め、ブランドにこだわらず、園の品を贈答用にさえ選んでくださるごく普通の市民の皆さんや、販売の機会を提供してくださる企業の方々の存在も知りました。設立10年、顧客は市外遠方にも広がり、障害者の皆さんは給与をコツコツ積み立てて、皆で社員旅行を楽しめるまでになりました。

 福祉作業所の物販の多くは、公共の施設やイベントの片隅で細々と行われているのが実情です。でも、もしそれが「福祉作業所の名に甘えず」生み出された力作ならば、「福祉作業所の名にためらわず」ぜひお買い上げください。たとえ金額はわずかでも、それは社会的に弱い立場に置かれている方々の生活の質と人生を直接支える行動です。憐あわれみではなく、どうぞ誇りを持って。







(上毛新聞 2012年3月15日掲載)