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視点 オピニオン21
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仏師  関 侊雲(前橋市六供町)



【略歴】農大二高卒業後、富山県南砺市の仏師、斉藤侊琳さんに弟子入り。10カ所で教室を開設。著書に『彫刻刀で作る仏像』(スタジオタッククリエイティブ)など。


映画と仏像



◎命の限り情熱を燃やす



 一昨年の秋、映画会社かから映画「大鹿村騒動記」に登場する仏像の制作依頼を受けました。当初、阪本順治監督の要望で、俳優の原田芳雄さん、岸部一徳さんの顔に雰囲気を似せて仏像を制作してもらいたいということでした。

 私は大きな驚きとともに、これは非常に責任がある大変重要な仕事だと思いました。今まで感じたことのない身震いするような緊張感が襲いましたが、修行中に師匠から教えていただいた「どんな困難に思える仕事依頼でもあきらめずに挑戦し、苦労した上で、それを乗り越えて成長していきなさい」という言葉を思い出し、迷うことなくこの依頼を引き受けることができました。

 後日、阪本監督との打ち合わせと岸部一徳さんの顔写真を撮影させていただくために日活撮影所の衣装室におじゃましました。大変緊張した初対面となりましたが、監督さんはとても自然に対応してくださり、この映画にかける意気込みや情熱、その中での仏像の役割、特に作品内で俳優の三国連太郎さんが仏像を彫る場面へのこだわりを熱く語っていただきました。お話の中で私も仏像を制作する趣旨をはっきりと理解することができ、監督さんの想(おも)いを込めて取り組むことができました。

 仏像を無事にお渡しして安心していたころ、再び依頼をいただきました。今度は撮影現場に行き、三国連太郎さんに彫刻の演技指導をお願いします、というものでした。

 当日、高揚感の中、長野県大鹿村の現場にうかがい、大変恐縮でしたが三国さんに手を添え、彫刻刀の握り方や顔を彫る際の刀の入れ方など、本格的な形をご指導させていただきました。その際、三国さんはとても紳士的な受け答えで、大変緊張していた私を優しく気遣ってくださいました。

 現場には主演の原田芳雄さんをはじめ、何人か出演者の方々がいました。その中でも原田さんは普段映像で見る印象通りで、若いスタッフに大きな声で支持や指摘をするなど、本当に精力的でお元気にみえました。その約半年後に映画の完成を見届けるようにして亡くなりました。後で聞いたのですが、監督さんは撮影中、原田さんの体調のことを既にご存じだったようです。監督さんのあの熱い気持ちは、この映画に対する想いがひときわ強かったからだと分かりました。お二人は数十年前からこの映画を撮ることを約束していたそうです。

 先日、日本アカデミー賞が発表され原田芳雄さんが主演男優賞を受賞されました。うれしい気持ちで胸がとても熱くなりました。私はこの映画を通して人の絆の深さ、生きる尊さを学ばせていただきました。原田芳雄さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。





(上毛新聞 2012年3月22日掲載)