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県立自然史博物館学芸員  姉崎 智子(富岡市上黒岩)



【略歴】神奈川県出身。慶応大大学院博士課程修了。史学博士。京都大霊長類研究所研究員などを経て、2005年4月から現職。専門は野生動物の保護管理。


自然を守るために



◎「いま」を調べ、伝える



 2月12日、自然史博物館に80人の方が集まりました。群馬県野生生物調査・対策報告会です。

 かけがえのない生き物たちを育む自然を調べ、伝え、守る活動をされている専門機関が、群馬県には数多くあります。地域と密着して活動を続けるこれらの機関の方々が互いに出会い、ネットワークを形成していくなかで、その取り組みをより広く一般の方々にもお伝えしていきたい、との思いを受け、この報告会は4年目を迎えました。

 今年も、「群馬の自然の『いま』を伝えよう」をスローガンに、今年から加わった民間団体の代表者の方や行政機関の職員ら12人が報告しました。内容は、長年にわたるヤリタナゴ(群馬県絶滅危惧I類、藤岡市天然記念物)やヒメギフチョウ(群馬県絶滅危惧I類、群馬県天然記念物)などの保全・保護活動、県内で増加傾向にある特定外来種コクチバスの現状と対策、シカ等の野生動物による植生の被害、登山ブームで荒廃が進む至仏山の対策などでした。

 「あらゆる生きものたちは、ただ一枚の『生命の網』を編んでいる。私たち人間も、その編み目のひとつにすぎない。いま、地球を包むその網が、人間の豊かな生活のために引きさかれつつある。だが、だれもその穴をふさぐ術を知らない。私たちは、自然のしくみについて恐ろしいほど無知なのだ」とは、カナダの生物学者、デヴィッド・タカヨシ・スズキ氏の言葉です(『いのちの中にある地球・最終講義‥持続可能な未来のために』より)。

 生物が生きていくために全面的に依存している、きれいな水、土、空気と、多様な生物を育む自然環境を持続させ、次世代へとつなぐために、私たちは何をどのようにしていったら良いのでしょうか。それにはまず、自然の現状を的確に把握し、多くの人々がその情報を共有することが大切です。そして、自然の全体像をとらえ、そのなかで、すべてのものがつながりあい、支えあっている姿を見る術を学ぶことが欠かせません。

 絶滅に瀕ひんした生き物を守っていくためには、生息地の環境を維持することが不可欠です。そのためには、その地域に住む方々が、その生き物と、生き物が棲すむ自然環境を、失ってはならない、かけがえのないものだと思ってくださることが一番大切なことになります。

 報告会終了後、一般の参加者から「自分が住んでいる地域に、そのような貴重な自然があり、保全活動がされているとは。もっと知らなければ」との言葉。群馬の自然の「いま」を伝え続けることの大切さをあらためて感じた瞬間でした。地域に根ざした活動をされているたくさんの方々とともに、これからも、群馬の多様な自然を調べ、伝え、守っていきたいと、思いを強くしました。






(上毛新聞 2012年3月23日掲載)