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視点 オピニオン21
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神流町観光インストラクター  細谷 啓三(伊勢崎市韮塚町)



【略歴】沼田市出身。神奈川県神奈川工業高、京都市立芸術大学校美術学部卒。大洋グループなどでテレビ制作関連の業務に携わり、2009年8月から現職。


ぬくもりの町



◎厚い人情ともてなす心



 神流町は、群馬県南西部に位置し、上信越自動車道藤岡インターから神流川をさかのぼること1時間あまり、奥多野の深い山々と清流に囲まれた小さな町です。標高は、役場周辺が340メートルで、周囲には1000メートル級のいわゆる西上州の山々が連なっています。そのため、平坦地が少なく、農地は急峻(きゅうしゅん)な地形を活用した段々畑が多くあり、水田はまったくありません。河川は、町の中央部を西から東へ関東一の清流、神流川が流れ、数多くの支流が神流川へ注いでいます。

 この地域は激しい過疎化と高齢化の波に見舞われ、かつて1万人以上いた人口も大きく減少しています。神流町の観光インストラクターの仕事をして2年8カ月が過ぎました。仕事を始めた頃は2550人いた人口が現在では2388人と、3年弱で160人余り減少しているのが現状です。15歳未満の子どもは103人、高齢化率は3月1日現在51・9%と前月より0・2%上がっており、少子高齢化の典型となっています。しかし、こんな数字ばかりあげていると、あまりよいことのない町のように思えますが、ぬくもりを感じられる話題がいくつかあります。

 その一つが、一人住まいのお年寄りのために30代、40代の主婦が立ち上がろうとしていることです。それは地元産の有機野菜などを使い、お年寄りの住まいにお弁当を届けられないかという計画です。お年寄りが一人で生活していると食がかたよってしまいます。利益を考えるのではなく、お年寄りの健康を考える輪がいま生まれようとしています。高齢化になると当然上がるのが医療費。しかし、このような活動を通して予防医学の一端になればと、私も賛同し協力できればと考えています。助け合いの心、都会がなくしてしまった人情。その人情がこの山間の町には残っています。隣人を思いやる心が町に活性化の灯をともしたような気がします。

 観光という観点から考えると、この温かさを伝えられるのは農家民泊です。以前から観光の特徴として神流町では農家民泊に力を入れてきました。お仕着せではない心温まるもてなし。町には観光地の代名詞である温泉はありません。しかし、このもてなしで心身ともに温まり、癒やされる宿泊施設をこれから増やしていけたらと思います。都会にあるものは神流町にはなく、神流町にあるものは都会にはない。お互いがもっていない部分に着目し、今後企画を考えていきたい。

 神流町は自然が豊かです。トレッキング・ハイキング、渓流釣り・アユの友釣り、夏の川遊び(清流体験)、そして、人情あるお年寄りの笑顔。自然と心温まる人々に囲まれて仕事ができることに幸せを実感しています。






(上毛新聞 2012年3月25日掲載)