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iikarakan/片品生活塾主宰  桐山 三智子(片品村菅沼)



【略歴】横浜市生まれ。東京都内の雑貨店勤務後、田舎暮らしを求めて2005年に片品村に移住。自然農法に取り組み、炭アクセサリー作家としても活動する。


片品村の財産



◎炭の美しさ今に伝える



 移住してすぐ、環境問題に関心のある私は村の人から「昔は冬になると炭を焼いていたから山は手入れされ、いろいろ循環していた」と聞き「炭」に興味を持った。調べてみると、炭にはたくさんの特徴があることを知り、環境問題を救うのは炭ではないかと思ってしまうほどだった。「今も炭を焼いている人はいるのだろうか」と思っていたところ、当時居候していた家の目の前に炭窯があるではないか! それが炭焼きの師匠、須藤金次郎氏(86)との出会いである。

 師匠の「金次郎炭」は一度に約3トンの薪(まき)を窯に入れ、10日かけてじっくり焼く。2週間後、炭として出てくるのは10分の1の約300キロ。高温で焼いた炭は日持ちがよく、県内の旅館などで使用されている。お客さんに喜ばれる炭を焼くことが師匠のモットーである。

 環境問題として炭を知ったが、窯に入れた薪が2週間かけて炭化する「炭」という素材に、単純に美しいとほれた。

 わけのわからない、都会の娘が勝手に炭の入れ替えを手伝うようになって、最初はお互いぎくしゃくしていたが、徐々に距離感は縮まり、師匠が炭焼きの勉強会に誘ってくれるようになった。そこで内ポケットに炭を入れているおじいさんに出会い、「なぜ」と聞くと「心臓の近くに炭があると、電磁波を吸収してくれるし、癒やしの作用もあると言われているんだよ」と教えてくれた。炭の美しさをもっと伝えたい、何か商品にならないだろうかと考えていた矢先のこと。炭をネックレスにしたらどうだろうか? 移住前、渋谷のアクセサリー雑貨店で働いたのでデザインがどんどん湧いた。

 しかし、炭は触っただけで手が真っ黒になってしまう。思い通りにいかずあきらめていた時、研究熱心な師匠が大事にしている木酢液の蒸留室に落ちていた炭は手が黒くならないことを発見し、これを機に炭アクセサリー作りに成功した。週末に都内の手作りマーケットに出店し、炭アクセサリーの反応を確かめクオリティーを上げる。そのうち、都内で個展の誘いを受けるまでになった。

 都会の若者たちの間で炭アクセサリーは「おしゃれ」として受け入れられた。

 あの出会いから8年。一昨年、師匠は長年の功績が認められ黄綬褒章を授章した。ずっと変わらず信念を持って続ける―師匠の背中から学んでいることである。信念を持って続けてきたからこそ、「金次郎炭」は人々に感動を与え人々を魅了する。それはこの村の財産であると私は思う。私は炭アクセサリーのように、この村にある財産を今に生かし、若い世代の人たちに伝えていきたい。





(上毛新聞 2012年3月26日掲載)