,

視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
国立赤城青少年交流の家所長  桜井 義維英(前橋市元総社町)



【略歴】川崎市出身。日体大卒。英国で冒険教育を学ぶ。1983年にNPO法人・国際自然大学校(本部・東京都)を設立。2011年4月から民間出身者として現職。


おうちの中での経験



◎役割を全うする充実感



 経験というのは特別なものばかりではありません。おうちでするいろいろな経験も大切な経験です。しかし、おうちでのいろいろな経験がどんどん減ってきているのではないでしょうか。例えば、おうちのお掃除のことを考えてみましょう。お風呂のお掃除は、誰がされていますか? 私は子どものころ、両親に言い付かってしていました。お茶わんも洗っていたように思います。でも、今考えれば、どれもきちんとできていたとは思えません。きっと、あとで母が後を始末していたのでしょうね。

 今はずいぶん、いろいろと便利になってしまって、洗う必要のないお風呂もあるとか聞きます。こんなふうに便利になって、おうちの中で、人が汗をかいてすることが減ってきました。それに伴って、子どもがしなくてはいけない仕事も減ってきました。減ったというよりも、なくなったといった方がいいかもしれません。皆さんのおうちで、子どもさんが決まってしなくてはいけない仕事というか、役割はおありですか?

 例えば、お掃除を考えてみましょう。ここには、ふたつの問題があります。ひとつは身の処し方です。最近ぞうきんを絞れない子どもが多いと聞きます。しかし、みなさんはそのようなことができなくても本当にまずいとは思いませんよね。だって絞ることがないから。しかし、絞るという身のこなしは、きっと、かたく締まった瓶のふたを開けるという身のこなしにつながります。そして瓶のふたを開けるという身のこなしは、重い物を持ち上げるという身のこなしにつながります。これらはみな脇を締めるという動作なのです。すなわち、小さい時にぞうきんを絞るという動作は脇を締めるという動作を育てる経験なのです。

 もちろん脇を締めるということは、いろいろな経験で積み重ねられることですから、ぞうきんが絞れなくても身に付けられるでしょう。しかしそうやって、ひとつずつ、便利ということで経験を奪うと、結果、脇を締めることを知らない子どもが育つ可能性もでてきます。

 もうひとつ問題なのが、自分はうちの中に、役割があるという充実感です。社会…子どもが一番はじめに出会う社会は家庭という社会なのです。そして、その社会の中で、きちんと役割があり、自分が認められているという充実感を得られることが大切なのではないでしょうか。それは、今の自分が社会の中できちんと役割を全うしているという社会性を育てるということなのです。これが、子どもたちが、おうちの中でいろいろな経験を積むということの意味なのです。






(上毛新聞 2012年3月29日掲載)