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◎使う目的をはっきりと ドイツ語を訳したり教えたりしていると言うと、相手が知っている単語を挙げてくれることがある。Danke(ありがとう)などはやはり有名だ。Ichliebedich.が出ることもあるが、いきなり「愛してる」と言われると、気持ちが込められていないのはわかっていても少し照れる。 ドイツ語を習っていたとき、先生が生徒の作った文を評価するのに、sch●n(きれい)やlangweilig(つまらない)という言葉を使うことがあった。そういうふうに言うのかと面白かった。そして確かに、私たちの作ったハリボテのような文章を先生が直すと、すっきりとわかりやすい文章になるのだ。発想が違うのだなと感じた。 ドイツで印象に残っているものに、ファイルがある。学校の事務所やお店の受付などに行くと、同じ型の分厚いファイルがきっちりと並んでいる。ファイルはドイツ語でOrdnerといい、元は動詞のordnen(整える、分類する)だ。ああ、ファイルは整理するものなんだとわかる。この動詞がまた変化して熟語になったのがinOrdnungで、「大丈夫」という意味で日常会話によく出てくる。秩序が整った状態が大丈夫とは! ああ、ドイツっぽい。 語学はどれだけ接したかが大きい。ある程度の量をこなすことで、その言語の感覚やリズムが少しずつわかってくる。ドイツ語の大家に、関口存男という人がいた。氏は文法をろくに習わないうちに『罪と罰』の独訳を辞書片手に読み始めたそうだ。2年後には、意味のわからなかったものがわかるようになってきたという。何ともすごい話だ。いきなり読み始めたことよりも、意味のよくわからないものを年単位で読み続けたのがすごいと思う。 最初はどんどんまねるのがいいだろう。こういう言い方をするのかというものを、読むなり、口で言うなり、聞くなり、書くなりして取り込んでいく。特にドイツ語は語尾変化が多いので、文で覚えたほうが後で使いやすい。 ワーキングホリデーでドイツに滞在中、妹と電話で話していて「勉強してる?」と聞かれたことがあった。「うん、授業以外にも、なるべく本を読んだり映画を見たり、友達と会っておしゃべりしたり、いい曲見つけたからCDも買ったよ」「いいねえ、それで勉強になるんだから」 そう、言われてみればどれも趣味のようなものだ。語学は面白いではないか。人から見たら遊んでいるようなことでも、言葉を使ったものなら勉強になっている。大事なのは、その言語を「使って」何をするか、何をしたいかだ。使う目的や方法をはっきり具体的にしたほうが、外国語はきっともっと身近なものになる。 編注:●はダイエレシス付きO小文字(小文字Oウムラウト) (上毛新聞 2012年3月31日掲載) |